第3話

…でも、ピアノは最初から苦難だった。


大きい音楽教室でやっても、

30分だけのレッスン。


しかも、大勢いる中で、ぼくは先生にほとんど声をかけてもらえなかった。


一回目のレッスンで、

指の形よ、形といわれても、

それだけで、

精一杯形をつくったけど、

次から何も言われなくなった。


形は、多分『悪い』。


でも、どうしても直せない。


先生は、ぼくが形を直せないのが分かっていて、でももう何も言わなくなった。


1ヶ月ももたなかった。


次に習い始めた教室は、近所のピアノの先生だった。


その先生は、ぼくの指の形を見て、

「前に、何処の教室へ行ってたの?」と、訊いてきた。


ぼくは、正直に言うと、

「そうなの。」と言って、

いちから粘り強く教えてくれた。


ぼくも、粘り強かった。


どうしても、

“弾きたい”。


思いは強かった。

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