第2話 星野さんと初会話。

「もしこの後時間あったらペアワーク課題進めませんか?」


+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜



授業終わり、私は星野さんと図書館のワークスペースにいた。



図書館の閲覧エリアから少し離れたここは、騒ぎすぎなければ私語OKというペアワークのために作られたような場所だ。



今日の星野さんは、白を基調とした三段フリルのワンピースに靴や小物を赤色で統一した装いで、田舎大学の古くさい図書館でさえ、趣きのあるセットに見えてくる。


しかし、そう見えるのは少数派らしい。

その証拠に、先ほどから周りの嫌な視線をガンガン感じる。


古ぼけた図書館にロリータ服という強いコントラスト×死角ゼロのワークスペースは小心者の私にとって、まぜるな危険!

最悪の組み合わせと言っていい。


一刻も早い図書館からの脱出を願って星野さんに話しかけた。


「課題のテーマ、何が良いですか?私全然合わせますよ。」


そういや星野さんとちゃんと会話するのは、これが初めてだ。


星野さんはしばらく考え込んで、

「ペアワークだし、ちゃんとお互いに興味のあるテーマを選ぶべきじゃない?」

と小首を傾げた。


星野さんの声は、想像より低くく落ち着いていて、声を張っている訳じゃないのに聞き取りやすかった。


全く話してくれないorきゃぴっとした甲高い声の二択を想定してたため、少し面食らってしまう。


「た、確かにそうだよね。この課題、自由度高いし。」


今回の課題は、「社会学の授業で学んだことを活かして自分の興味・関心のある事柄について述べよ」という何とも抽象的なものだ。


こんな何を書いたらいいのか分からんレポート課題が、成績評価の20%を占めているなんて、レポート初心者に鬼畜の所業である。


「私は、ファッションについてなら全般的に興味があるけれど。本田さんは?」


私がやりたいテーマを決めあぐねていることを悟ったのか、星野さんが話題の先陣を切ってくれる。

意外とコミュニケーション上手なのかも。

課題がすんなり進みそうで一安心だ。

それはそれとして。


「私も服は好きだけど、もっと真面目なニュースとかのほうが…」


そう言うと、星野さんは不思議そうな顔をした。


「何か気になるニュースがあるの?」

「いや、そーいう訳じゃないんだけど…」


流石に自由度が高いといっても、評価20%の課題で奇抜なテーマは避けたい。

そもそも、ファッションと社会学でどんなレポートを書けばいいのか、見当もつかない。

絶対書きにくいんだから、もっと無難で頭の良さそうな―



「それって、本当に本田さんが興味があるものなの?」


「………」


真っ直ぐにこちらを見つめる目を前に、言葉が喉につっかえて出てこない。

漫画ならば、私に矢が深々と刺さってるだろう。


星野さんは、痛いところを突きさされた瀕死の私を逃がす気はさらさらないらしく、一触即発の沈黙が続いてしまう。

あぁ、今なら蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかる…。お前はベストを尽くしたよ、ぴょん吉。

現実から全力で逃避しつつも、雲行きがあやしくなってきたのを感じざるをえない。


このペアワークは一筋縄ではいかないだろう、と。




・・━━・・━━・・━━・・


「何個かこっちで考えてみるから、まとめたらまた話し合いましょ。」


結局、今日は何も進められなかった。

というか、何を言っても星野さんに詰められる気がして、テーマ候補の1つも出せなかった。

せっかく図書館に行って成果ゼロなんて…

あんな周りの目に耐えて成果ゼロなんて…

割に合わなすぎる、とついため息が漏れてしまう。



外に出ると、もう夕日はすっかり落ちて、空には鋭い三日月が刺さっていた。



やっぱり、面倒な人とペアになってしまった。

出席番号で決められたのだから、のせいだ。

この名前はろくなことがないと空を睨む。


三日月の傍には、やけに主張の強い一番星が輝いていた。


あー、でも、

誰かにあんな風に真っ直ぐ見つめられたのは初めてかもしれない。

どうせならイケメンと見つめ合いたかったとは思うものの、

無難な人付き合いしかしてこなかった私にとって新鮮なのは確かだ。



こそばゆいような、なんとも形容し難い気持ちを抱えたまま帰路についた私を、やかましいくらいに眩い一番星は照らし続けていた。







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