文芸部の星野さんはメンタル最強。

真中 こころ

第1話 星野さんは有名人。

この大学には、誰もが知る有名人がいる。

彼女の名は、星野朱理ほしのあかり


彼女を初めて見たのは、入学式に舞い散った花びらが枯れ切って、葉を毛虫がパクつき始めた桜の下だった。


…もう少し運命的な演出にできなかったのか、小一時間ほど神を問い詰めたい。


何はともあれ、

彼女との出会いが、私、本田美波ほんだみなみの人生最大の転換点になるなんて、あの頃はまだ知るよしもなかったのである。


+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜




「はぁ…」

私は大学の食堂で1人頭を抱えていた。


「どしたん?美波」

「なんかあった?」


声をかけてきたのは同じ学部の女子2人組だ。

トレーにお揃いのサラダボウルをのせる彼女たちは、春に大学で出会ったばかりの知人である。

ご丁寧に巻かれた茶髪に、今期のトレンドをおさえたファッション、ふんわりと香る甘いフローラルの匂いにいたるまで、今日も今日とてであることに抜け目がない。


「いや、さっきの社会学の授業課題、ペアが星野さんで。」

「「えーっ!まじ?」」


私の言葉に2人がわざとらしい悲鳴をあげる。


「星野さんって、星野?やばーい。」

「しかもそのペアワークって結構重要なやつじゃん!ウケる。」

「「星野がペアとか死ぬて!」」


そう、大学内で星野さんを知らない人はいない。

THE日本人である黒髪の重めの前髪、腫れぼったい一重、ぽっちゃりとした体型、

極めつけは―


「てか星野って、なんでいつもロリータ着てんだろうね?」


同調圧力の国・日本において、ふりふり+リボンたっぷり+ビジューがキラキラ眩しいロリータ服の彼女は格好の的だった。

初心者でもさぞや、当てやすい的である。


周りの声が聞こえていない訳でもないだろうに。

女子達のクスクス笑いは意外と響くし、デリカシーを母親のお腹に忘れてきた男子達は大声で嘲笑する。


「デブスのくせに」

「似合ってなさすぎ」

「どすこいロリータ」


…それでも悪口の散弾の中を突き進む彼女は、いつだって堂々としていた。


「はぁ…」


僅かに感じた羨望をかき消すように、私はまたこっそりため息をつくのだった。

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