第4話 魂の輝き
コンサート当日、咲坂さんと会場で待ち合わせ、コンサートグッズを一緒に並んで買った。
自分の趣味を分かち合える友人がいること、仕事の悩みを話せる同僚がいることが、こんなにも人生を彩るのかと、私は心底うれしかった。
もっと早く自分をさらけ出せばよかったと後悔もあった。
思い悩んでいた日々はなんだったんだろう。
昔の青春を取り戻しているようで私はとても幸せだった。
コンサートを思う存分楽しみ、私の喜びは最高潮だった。
そう。あの瞬間までは。
私は、大事なことを忘れていた。
「それじゃぁ、また会社でねー!」
咲坂さんと別れ、ライブの余韻に浸りながら帰りの道を歩いていた時だった。
横断歩道の向こう側に見覚えのある姿があった。
黒いスーツに黒いネクタイ、黒い帽子から覗く金色の瞳。
あれは‥‥。
その姿が誰だったか思い出そうとしていたその瞬間、目の前がライトで照らされ、急ブレーキの音が響き渡った。
何かが激しくぶつかる音がした。
あたりが騒がしい。それに体のあちこちが痛い。
意識が朦朧とする。
なんだろう…。私は微かに目を開けた。
そこには初めて会った時と同じ、ゾッとするほど美しい顔をした少年がいた。
「きれいな魂になったじゃねぇか。」
彼はそう言って嬉しそうに笑っていた。
まるで欲しいおもちゃを買ってもらえた子供のように。
その時私は思いだした。そうだ。彼は死神だった。
どれだけ私に寄り添ってくれたように見えても、どれだけ私を励ましてくれていたように見えても、私の魂を回収しにきた死神だったのだ。
そうだ、この死神は魂の輝きをこよなく愛し、人が変わる瞬間が大好きだと言っていた。
そうか。彼は私の魂を輝かせるためにずっと‥‥。
「やっと回収したのか、1441番。」
楽しそうにはしゃいでいる死神に声をかけたのは、彼と同じような黒いスーツに身を包み、黒いネクタイを締め、黒い帽子をかぶったもう一人の死神だった。
同じような姿で瞳の色も同じであるが、身長はこちらの死神の方が高い。
そして雰囲気も落ち着いていた。
「あぁ、1432番。見てくれ、この美しい魂の輝きを」
1441番と呼ばれた彼は、恍惚とした表情で手のひらサイズほどの球体を愛おしそうになでた。
その球体は大きなビー玉のようで、中では金色の光が輝いていた。
「査定があるから速やかに回収しろと言ったはずだが。」
淡々と告げてくるもう一人の死神に、彼は不快感を漂わせながら言った。
「あの時こいつは自分で命を絶とうとしていた。自死は魂が最も汚れる行為だ。
俺様は美しい輝きを持った魂にしか触れたくないんだ。
美しく素晴らしい輝きを放つ魂を回収することに比べたら、査定なんて俺様にはどうでもいいことだ。」
そう言ってのける彼を置いて、1432番は夜の闇へ消えた。
残った彼は、血まみれで倒れている松本由美を一瞥し、
「本当にいい輝きだ。」
と綺麗な顔で楽しそうに笑った。
そして回収した魂を大切そうに抱えながら、彼もまた夜の闇へと消えていったのだった。
死神の輪舞 @Takano_N
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