第49話:異変発生

「次は何やるんだ?ラーク」

キャメルが尋ねる。

「うーん、的当ても見てたから必要ないかとは思うんだけど、魔法をね。」

「あれ、でもそう言えば殿下達って一通りの魔法は使えるんじゃなかったっけ?」

アヤメが皇子達を振り返り確認する。

「えぇ、そうですよ。実戦に耐えるレベルの魔法は使えます。勿論ウォーロックもです。」

横でウォーロックが頷いている。

「じゃぁ敢えて魔法の特訓も必要ないんじゃない?」

ラークに向き直ったアヤメが確認する。

「あぁ、だが魔力を的当てのレベルは見たが実際に実戦レベルの確認はしたわけじゃないからなぁ。これから身を守る必要も出てくるかもしれないしあらかじめどのレベルなのか知っておけば俺達もアドバイスとかしやすいかなと思ってね。」

「そっか、それもそうだよね。じゃぁ殿下達はちょっと魔法の授業に付き合ってもらうよ。」

「わかりました、大丈夫です。」

オーガストは短く応えた。


「じゃぁ、早速だけどこれを3人共装着してくれるかな?」

キャメルが差し出してきたのは、革でできた本体に金属製のガードプレートを取り付けた軽量のオープンフィンガーグローブ。

良く見ると、プレートには魔法陣が刻んである。

「その魔法陣は込めた魔力を変換して純粋な破壊力にしてくれる、近接戦闘用の魔導武具です。魔法は使えなくても魔力の放出が可能な兵士が主に使っていますよ。」

「お姉さま、これは確か私たちも持っていますわ。」

「そうね、装飾はもっと豪華だけど。ねぇお兄様。」

「うん、そうだね。我が国にもありますよ、ラーク。」

「帝国にも同じものがあるなら話が早いですね、早速これを付けてもらって魔力を込めてみてください。そして、この魔力計測にも使われるサンドバッグを叩いてみてください。」

『はい!』

元気よく返事をした3人は早速グローブを装着し、自然に脱力した姿で道場に並んで立った。


皇子達が目を閉じ、体の力を抜き体内を巡る魔力が両手の先に集まるイメージを脳内で描き、魔力を操作しグローブに魔力を込める。

次の瞬間、三人が装着したグローブから強力な圧が発せられ、ラーク達が一歩後ずさった。

皇子達が装着したグローブだけを取り囲むように周囲の空気が陽炎のように揺れて見える。ダビドゥスでの的当てで遊んだ時に他の兵士が体全体に同じような物を纏っていたが、皇子達のそれは明らかに兵士のそれとは濃度や雰囲気が異質なものであった。

「ラーク、これは・・・サンドバッグはやめさせた方が・・・」

「いや、実力は見ておきたい。このままやらせてみよう。」

二人のやり取りを見ていたアヤメが呆れた様につぶやく。

「知らないよ、どうなっても・・・」


オーガスト達がサンドバッグの前に並ぶ。確かダビドゥスの的当てでも同じ光景だったような気がするが気にしない。

皇子達3人がグローブを脇腹迄引き、正拳突きの態勢を取る。

ラーク達3人は固唾を飲んでいる・・・

次の瞬間、皇子達が『ハッ!』と言う掛け声とともに繰り出した突きは、サンドバッグの中心を正確に捉えた。

だが何も起こらない。ラーク達がホッと胸を撫でおろしかけた次の瞬間・・・


『ボゴンッ!』


サンドバッグの中から濁った音が聞こえてくる。サンドバッグが一気に膨らんだかと思うと、内部から木っ端みじんに3つとも破裂し中身に詰められたウエスが盛大に宙を舞い、雨のように降り注いできた。


「やっぱりねー・・・」

当然の結果と言わんばかりのアヤメ。

「あーあ、やっちゃった・・・どうすんの?ラーク・・・」

頭を抱えるラークを見ながら楽しそうな表情を押し殺すキャメル。

「・・・予想してとは言え三つとも破壊するとは流石に思わなかったよ・・・はぁ。」

まさかと言う感じで手で顔を覆うラーク。


当の皇子達は、『またやってしまった・・・』と言う表情でラークの方をチラチラ見ている。

「いや、気にしないでいい。殿下達の実力を見たいと言ったのは私だ。心配しなくていいよ。」

皇子達の視線に気づいたラークがやや疲れた様子で気遣う。

ラークにしてみれば的当ての補償と、今回のサンドバッグ破壊。

案外少なくない金が飛んでいくことになるのだから当然だろう。カールトンに追加予算要請書と顛末書を提出しなくてはならない事が決定事項となっているのだ。


「やれやれ、ここまでとはね。こりゃ大会も優勝候補になるね、三人共。」

キャメルが楽しそうな表情をする。

「そうねー、格闘技の方も十分な実力だし早く帰って大会に出てみたいわね。」

「・・・ところで・・・」

ラークが真面目な表情でキャメルに問いかける。

「皇子達と准将殿の大会参加申し込みはしたのか?」

「あ・・・」

「いつまでだっけ?」

アヤメがキャメルに振り向きながら問う。

「9月の30日迄だからまだ大丈夫だよ。」

端末を確認しながらほっとしたようにキャメルが報告した。

「じゃぁ、もう申し込んでおこう。忘れるといけないし、トレーニングはいったん中断して申し込みを終えてからもう一度トレーニングをしよう。」

「じゃぁそれまで殿下達とカフェでおしゃべりしてるー♪」

アヤメがアルバータとルシンダの袖を引っ張りながら道場から出ていく。

「やれやれ、じゃぁ俺達もカフェに行くか。」

「そうだな、パソコンを部屋から取ってくるよ。カフェで申請する。」

「了解、じゃぁカフェで。」

「OK、ラーク。」


数分後、カフェでパフェをつつきながら談笑する6人と、PCで大会出場の申請をする一人の姿があった。

「OK、これで大丈夫だと思う。カールトン提督にも連絡は入れてあるから大丈夫だろう。」

「すまんな、キャメル。」

「気にすんな。」

その後も他愛もない会話をしながら談笑していると、一人の下士官がカフェに飛び込んできた。


「中佐殿!本艦付近で救難信号を受信しましたが、その後沈黙!呼びかけにも返答しません!」


「・・・わかった、すぐ行く。殿下達もご同行下さいませ。」

9月20日、昼食前の時間であった。

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