第50話:探索開始、そして・・・

「状況の報告を!」

艦橋に到着したラークが通信担当の下士官に問いただす。

「はっ!数分前ですが、近隣の海域において救難信号を受信。すぐに消えたため発信源は判明せず、オープン回線で呼びかけましたが返答はございません。」

「わかった。発生源は調査できそうか?」

その問いかけに下士官が近くにいた索敵担当の下士官と相談し答える。

「15分程度あれば発信源のおおよその位置が特定できるそうです。」

「わかった。この海域は有人無人問わず島が多い。慎重に調査してくれ。」

「はっ!」


約13分後。

「中佐殿、95%の精度で発信源が特定できました。」

「そうか、で・・・どこだ?」

その問いに下士官が何とも言えない表情で報告する。

「・・・ここから南東方向に約20キロ。カピート島です・・・」

「よりにもよってか」

キャメルがその名前を聞いて唸った。

「ねぇ、確かあそこって」

アヤメもあまりよい表情をしていない。

「あぁ、昔軍施設を作ろうとして撤退した所だ。その後民間人の移住も行われたが、余り上手く行かずに放棄されたんじゃなかったか?キャメル、少し島のデータを出してくれないか?」

「あぁ、わかった。」

キャメルがコンソールを操作して島のデータをパネルに表示する。


「軍の施設を作ろうとしていたから港は大型戦艦が入港できるだけの規模はあるか。住民数は・・・不明か。」

「元々軍民一体の観光可能な港町を作ろうとしていたから、放棄されたビルとショッピングモールの廃墟はあるみたいね。手入れはされていないと思うけど。」

アヤメが島の地図を見ながら指摘した。

「そうだな、行こうと思えば行けるか。で、どうする?救難信号を無視するわけにはいかんが。」ラークが二人に問いかける。

「そりゃ俺達が行くしかないでしょ。」

「殿下達は沖合で待機してもらって、私達三人で探索かしらね。」

アヤメが楽しそうに手をこすり合わせている。待ちきれないと言ったところか。

「あぁ、悪いがオーガスト殿下達は本艦で待機しておいてほしい。他国の国賓を危険には晒せないのでな。」

ラークの意見は至極もっともな正論ではあるが、皇子達はその意見に嚙みついた。


「せっかくここまで来たら私達も参加させてください!」

「駄目だ、何があるかわからん。」

「私達も自分たちの身は自分で守れます!」

「あなたたちに何かあったらどうするんだ?」

「連れて行ってくれないなら自分たちの艦で島に強行接舷します!」

『・・・意外と聞き分けが無いな・・・』

そんなことを思いながらラークはやれやれと言った感じで皇子達を諭した。

「やはりだめです。貴方達は大事な国賓です。もし何かあれば国際問題になります。それに祖国であなた達の無事を祈っているお母さま方に顔向けできませんよ。」

「・・・わかりました。」

やや渋々と言った感じではあったが、結局オーガスト達は残留に同意した。


「さて、そうと決まればメンバー選出だ。基本的に島の奥まで探索するのは俺達三人。港と周辺のエリアにあるビルは接収し司令部を設置する。俺達との連絡拠点とするぞ。」

ラークがそう指示を出した。キャメルがそれに続いて指示を出す。

「皇子達も基本的にはいつでも退却できるようにしておいてください。我々も無事に戻ってくる予定ですが、万が一があります。いつでもこの海域から脱出できるようにしててください。」

いつになく厳しい口調でキャメルが皇子達に指示を出している。

「さて、海兵隊も上陸準備するよ。基本的に海兵隊は警戒と付近の制圧に回るけどいいよね?」

アヤメがラークに確認する。

「あぁ、それで構わない。上陸後の俺達をフォローさせてくれ。」

「了解」


「で、島まではあとどのくらいの時間で到着する?」

ラークが下士官に問いかけると『あと15分程度』との答えが返ってきた。

「よし、当該海域到着1時間後に上陸する。それまでに準備を整えるように。それと、キャメルは本国への報告と調査と警備隊の要請を頼む。私は第四艦隊のアドラー提督に協力を求める。ここだと本国よりダビドゥスの方が近いからな。」

「わかった、アドラー提督への連絡は頼むぞ。」

「アヤメは海兵隊全員の上陸準備を頼む。状況がわからない以上白兵戦力は全て出していこう。フル装備で。」

「OK、任せて。」


「よし、では先ほどの指示通り島に上陸する。どんな状況かわからんから油断するなよ。私たちが不在の間は副長のスティンガー少佐に指揮を任せる。少佐、基本的には沖合で待機。周辺の警戒と即応体制を解かないように。皇子達の艦を守る様に展開するように。それ以外は貴官に任せる。」

「はっ!」

「それでは解散。準備にかかってくれ。」

アヤメとキャメルも適当な敬礼で自分たちの上陸準備に取り掛かるべく、艦橋から離れていった。


当該海域到着後1時間、準備を整えたラーク達が島に向かって上陸を開始した。

海兵隊の上陸用舟艇と、複数の小型ボートに分乗したラーク達が潮風を浴びながら海原を疾走する。

数分後島の港に到着したラーク達は、即座に隣接するビルと旧ショッピングエリアを接収した。

特に襲撃もなく、放棄されていただけで破壊や汚染もないビルは人海戦術で清掃・整備された後、エリアの中ほどにある旧オフィスビルの一つに仮の司令部が設置された。

基本的にはここで寝泊まりしながら島の探索を開始することになる。


そして、港を接収後すぐに島から森へと入る入口に立つラーク達。

「さて・・・これからだな。」

ラークのつぶやきにキャメルとアヤメが頷く。

「行きますか。」

「そうだね、さっさと探索しますか。」

両の拳を打ち付けアヤメが楽しそうにしている。

「まるでピクニックだねぇ。」キャメルが苦笑しながら楽しそうなアヤメを見ている。

「ちがうの?」ケラケラ笑いながらアヤメは腰のホルスターから銃を取り出しマガジンを取り出して確認してみせ、軽快な音を立てて再び装填した。

「遊んでないで行くぞ。」

ラークがたしなめ、彼らは島の奥にあるはずの集落へと向かって続く道を歩き始めた。


時に9月20日午後。

ここから三人が更なる騒乱の渦中に放り込まれることとなっていく・・・


~・~新章へ~・~

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異界大戦記  ~第一章:揺籃期編~ 呂瓶尊(ろびんそん) @MCkamar

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