第48話:鍛錬③
「あいよ!」
アヤメが元気よく返事をし、道場の真ん中に引かれた開始線の前に立った。
「さ、お嬢ちゃんたちはどっちが来るんだい?」
そう問いかけるアヤメにアルバータとルシンダは顔を見合わせる。
そして二人同時に手を挙げた。
『私が』タイミングも完ぺきにハモっている。
「被ってるじゃん、どっちもやりたいならまとめて二人でかかってくるかい?私は一向に構わないよ!」
既に狂戦士モードに片足を突っ込んでいるのか少々?言葉遣いが乱暴になるアヤメ。
「良いのですか?私もルシルも格闘技は修めてますわよ。二人掛かりですと圧勝してしまうかもしれませんわよ?」
「そうですアヤメ殿、私も子供ですが訓練はしっかり受けておりますわ。侮られては困ります。」
「・・・なるほどね、なおさら二人纏めてかかっておいでよ。完勝して見せるわ。」
にこやかな表情からは想像もつかない、戦闘を愉しむ女狂戦士の顔がそこにはあった。
「わかりました、それでは二人掛かりで全力で行かせて頂きます。アヤメ殿が負けても言い訳にはなりませんわよ?ルシル、行きましょう。」
「えぇ、お姉さま。」
ラークが焦ったような声を三人に投げかける。
「おい、魔法と武器は禁止だぞ!三人ともわかっているな!?」
『わかっている』
『わかっていますわ』×2
女達の声が重なる。
「ラーク、諦めよう。あぁなったらアヤメが止まらない。ローズとルシルもちょっとスイッチ入ってるみたい。やりたいようにやらせよう・・・」
「はぁぁぁぁぁぁ・・・・仕方ないか。じゃぁ勝手に始めてくれ。ケガさせるなよ、どちらも。」
ラークがやや投げやりに許可を宣言。
アルバータ達はアヤメの前に対峙した。
「じゃぁお嬢ちゃん達、かかっておいで。先手は譲るよ。」
右手のひらを上に向けてちょいちょいと『かかってこい』のしぐさをするアヤメ。
左手は腰に当てて余裕である。
身長175センチのアヤメと、155センチのアルバータに148センチのルシンダ。
身長差は歴然としており、二人の皇女からは見上げる様な差である。
「お姉さま、負けられませんわ、絶対勝ちましょう!」
「えぇ、もちろんですわ。」
「・・・威勢がいいけど、もう始まってるからね!」
その瞬間、アヤメを見上げていた二人の視界からその姿が一瞬で消え、次の瞬間皇女たち二人の視界は天井を見上げていた。
一瞬でしゃがみ込んでの強烈な足払い、それが視界が変わった理由である。
見事に二人纏めて足払いをかけられた姉妹は、仲良く床に後ろ向きに倒れ込もうとしていた。
「・・・っ!」
次の瞬間、姉妹がともに地面すれすれでバク転で着地し後方に距離を取った。
「あら、やるじゃない。てっきり頭ゴッチンしてこれで終わるかと思ってたわ。おじょうちゃま♪」
「まさか、これだけでは終わりませんわ。行くわよ、ルシル!」
「はい、お姉さま!」
次の瞬間、姉妹は左右に分かれ、両側からアヤメを挟み撃ちにする形で攻撃を仕掛けた。
まず、アヤメから見て右側に回り込んできたアルバータが飛び後ろ回し蹴りをアヤメに放つ。
正確にこめかみを狙いに来たそれを
着地の時に態勢を崩したアルバータの目の前まで蹴りが迫った次の瞬間、アヤメの左わき腹に鈍い衝撃が走り、1メートルほど吹っ飛ぶ。
ルシンダが至近距離から放った掌底がアヤメに見事にヒットしたのだ。
だが、アヤメも吹き飛ばされながら態勢を整え、軽やかに着地する。
その表情にはダメージの色は全く見えない。
「へぇ、おとなしく見えて結構お転婆だね・・・」
「ひどい言われようですわ、ねぇルシル?」
「えぇ、アヤメ様に比べれば大したことありませんわよ?」
「言ってくれるわね・・・じゃぁもうちょっとギア上げるよ!」
その後も続く攻防を暫く眺めていたキャメルとオーガストは顔を見合わせていた。
「ガシー・・・妹さんたちもしかしてアヤメと同じタイプ?」
「えぇ、
「あの年で・・・そうか・・・始めてからもう3分ぐらい経つがそろそろ止めようかな?」
「えぇ、このままだと本当に妹達も色々破壊しかねません・・・」
「わかった、じゃぁ僕がアヤメを止めるから君は妹達を。」
「・・・一人で二人をですか・・・できるかはわかりませんが・・・」
その後、ラークとウォーロックも加わって4人がかりでようやく彼女たちの戦闘を止める事が出来た。
大怪我こそしていないが、皇女たちもアヤメも着ていた服はボロボロになってあられもない姿になっている。
『さっさと着替えてこい』
4人全員の意見で3人の女性たちは新しい服と共に更衣室に追いやられ、数分後に新品のジャージと体操服に着替えて戻ってきた。
流石に4人ともしょんぼりしている。
道場の隅でアヤメはラークに、姉妹はウォーロックにお説教を食らっていた。
「で、僕たちもやろうか?ガシー。」
「そうですね、キャメルさん。」
ぽつねんと残った二人が漸く組手を始めたが、二人とも毒気を抜かれた為か技術は高く見ごたえのある組手ではあるものの先の二組に比べるとインパクトが薄い組手になってしまったのは否めなかった・・・。
「まぁ、こんなもんです。」
「妹達にすっかり見せ場を持っていかれました。」
珍しく影の薄い二人であった。
ラーク手を叩いて声を出した。
「さぁ次いくぞ、次!」
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