第47話:鍛錬②


「じゃぁ、そろそろ準備はいいかな?」

キャメルが軽く手を叩き注目を集める。

「先ずは軽く道場をランニングしてもらおうか、10周ね。」

「はーい」


軽く息を切らす程度の優しめのランニングが終わり・・・

「よし、じゃぁオーガスト殿下」

「キャメル殿、ガシーとお呼びください。」

「じゃぁガシー、私に『殿』」は無しで。」

「はい。」

「じゃぁガシー、君達3人は格闘技の経験はあるかい?」

キャメルの問いかけにラークとアヤメもハタと気づく。

「そーだ、魔法は的当ての時にも聞いたけど、格闘技は聞いてなかったよね?ラーク」

「あぁ、そうだな。で、ガシーたちは格闘技の経験はあるのかな?」

「もちろんです。メルセリアにも御留流おとめりゅうとなっている武術があります。皇族は幼少のころから叩き込まれますので、私も妹達も自分の身を守るだけでなく、実戦参加も可能なレベルまで鍛錬は積んでいますよ。」

「うーん、皇族ってその年でも実戦参加できなきゃいかんレベルまで訓練するのかぁ。大変だねぇ。」

キャメルが微妙な表情でオーガストに話す。


「いえ、皇族ですから仕方ないですよ。それに、今回のクーデターでは何もできていないに等しいのですから私も偉そうなことは言えません・・・」

やや表情を曇らせたオーガストにキャメルが慌てて詫びを入れる。

「あ、いやごめん。そんなつもりはなかったんだ。普通なら遊んでる年齢の子供がたいへんだなぁ・・・と。」

アタフタするキャメルにアルバータが苦笑しながらフォローした。

「気になさることはありませんは、皇族に生まれたからには仕方ない事ですし、特に気にしてもおりませんわ。キャメル殿。」

「・・・すまん。」


「さ、おしゃべりはそこまで。次は組手の訓練に移るぞ。じゃぁ、ちょっとデモンストレーションで私とウォーロック准将、お手合わせ願えるだろうか?魔法と武器は無しの純粋な格闘技でお願いします。」

いきなりラークに指名され呼ばれた当人は一瞬驚いていた。

「ひょっ?!承知しました。」

いきなり呼ばれて驚きながらも道場の真ん中でラークと相対するウォーロック。

「いやはや、私の様な年寄りではデモンストレーションにはなりますまい。スピークス中佐。」


「何を言っているんですか・・・私と相対した瞬間わずかな動きですが重心を後ろに切り替えてますよね。気づきにくいですが防御とカウンター狙っての態勢と言うのは一目でわかりますよ。それに体側に垂らした両腕も適度に力が抜けてますよ。」

「おや、バレましたか。もっとうまくやるつもりだったんですが。」

「・・・わざと気づかせてるのもわかってますよ。」

ラークが表情から穏やかさを消した。

「承知。ではお詫びとして私から仕掛けますよ。」


ウォーロックが表情から笑みを消しそう話した次の瞬間、やや後屈気味に構えていた立ち方から後ろ足で思い切り床を蹴りながら踏み込んできた。

所謂一足一刀の間合いとされる2m前後の距離を後ろ足の踏み込みだけで一瞬で詰めて来た。

踏み込みと同時に、後ろに重心がかかる後屈立ちから一瞬で重心が前に係る前屈立ち気味に態勢を切り替え、ラークとの距離を詰める。

距離を詰めると同時に、強烈な至近距離での突き四連撃。

左の正拳で水月みぞおち狙いからスライドさせるかの様なカチ上げ気味での下顎あご狙い、その後右正拳で勝掛に襲い掛かり、最後にもう一度左の下段突きで明星下腹部を狙う。正確無比で無防備に決まればまず動けなくなる連撃。

だが、ラークの防御も負けてはいない。

初撃の水月狙いこそ右腕で受け止めたが、その後の下顎狙いは、水月狙いを受け止めた右腕の肘を軸とし手刀を体の外側に回転させる外受けの要領で捌く。

喉狙いの一撃は右腕と交差させた左腕の外受けで払い退ける。

最期の明星狙いは左の外受けを下段払いへと変化させ、鋭い連撃を躱し切った。


ウォーロックは攻撃を捌き切られ、最後の明星下腹部狙いを払われた際に一瞬体制を崩した。そこにラークの容赦ない膝蹴りが襲い掛かったが、蹴りが直撃する寸前でウォーロックも前に出ている脚を一瞬で蹴り込み後ろに飛び下がった。

そこにラークの追撃が入る。左順突きの上段正拳突きが真正面から受け止められ不発に終わると、追撃の勢いを利用して踏み込んだ左足を軸にし一瞬で時計回りに回転、ウォーロックの顔面に正確無比な右の裏拳を打ち込む。

ウォーロックもこれを右の外受けでガードして受け止めるが、勢いに一瞬ぐらついた。

そこを裏拳をスッと脇腹迄引くと同時に、右足を軸とした強烈無比な左の回し蹴りがウォーロックに襲い掛かる。

これをウォーロックは左の手刀受けでラークの脛を強烈に叩きつけ、次の瞬間二人とも後ろに飛び退り、一瞬の攻防が終わり静寂を迎えた。時間にしてほんの数十秒であった。


「おぉう・・・これは。」

キャメルが驚きの呻きを発した。

「あの人、准将なのにやるじゃん。普通どこの国でも将官クラスになると武術はそこまで鍛錬しないもんなんだけどね・・・ガシー。准将って相当強いね?」

「准将は私たちの武術の師匠でもありますし、我が国では皇族護衛の将官は武術の鍛錬継続が義務付けられていますから。」

オーガストがそう答えるとアヤメが納得したように頷いた。

「道理で。現役の動きね、確かに。あれなら今度の大会でも十分通用しそうね。」

「もちろんです。准将は指揮官としてもそうですが、個人的な戦闘力も高いからこそ私たちの護衛に選ばれていますから。」

「はへ~・・・キャメル、ラークが息を切らしてるわよ・・・珍し。」

「そりゃ仕方ないよ。あれだけ一瞬での攻防だと相当呼吸が乱れるからね。准将の方もかなり息切れてるよ。互角だね、あれは。」


「は~・・・参った。決着つかないね、これ。」

ラークがやれやれと言う感じで構えを解いて両手を挙げた。ウォーロックも大きく息をつき、構えを解いて首をコキッと鳴らした。

「もう少しやれるかと思いましたが、流石ですな。中佐。」

「いや、准将の動きは20代クラスですよ。参った参った。」

「お会いしたのがここでよかったです。スピークス中佐。」

「確かに、戦場ではお目にかかりたくないですよ。閣下とは。」


軽く握手を交わして両名が五人の元へ戻ってきた。戻りながらラークが皇子達に告げた。


「さ、次はアヤメと皇女たちのどちらかの組手を見せてくれ。」

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