第44話:帰還、首都へ
報告書を読み終わったアドラー中将は、ラーク達に向かって労いの言葉をかけた。
「お疲れ様だったな。短期間とは言えかなりのプレッシャーだったろう。後は私の艦隊に任せて、貴官らは帰還の準備を進めておいてくれ。」
「ありがとうございます、閣下。引き継ぎ書もご確認をお願いいたします。」
ラークが差し出した業務引継ぎ書にアドラーが目を通し、書類めくり読み進めながらその内容を称揚した。
「報告書もそうだが、引継ぎ書も簡潔で要点を押さえている。非常に読みやすくて助かるよ。」
最期まで目を通して、中将は三人に質問した。
「これを読むに、メルセリアの叛乱軍は皇子達を奪還しに来る可能性はあるかね?しかも我が国の領海侵犯までして。」
三人は顔を見合わせ、代表してキャメルが返答した。
「ないとは言い切れないでしょう。ただ、先だっての戦闘でももし自分たちが追いかけている艦に皇子達が乗っていると知っていればもっと大掛かりな追跡になっていたとも考えられます。」
「なるほど、それで?」
「皇子達が乗っていたことに気づいていないと考えられるのが一つ。もう一つは、皇子達の追跡にまで十分な戦力を割ける状況ではないと思われる事です。」
「確かにな、国内の掌握に精いっぱいだと考えると、対外的に何かする余力は『今の所』ないと考えられるか・・・」
「えぇ、ただしそれも長くてもあと1~2週間程度かと。帝国北東部を掌握しているテューダー大公の反撃が始まる可能性が高いですし、もし反撃が始まったとしても帝国南部のかなりのエリアを手中に収めている叛乱軍とは膠着状態になる可能性が高いです。そうなれば、皇子達を捜索しに外征してくる可能性はあります。」
「なるほどな、了解した。ただ基本的には本国の命令が無い限り公海上までは出撃できても、メルセリア領海内には侵入出来ない。叛乱軍が見境なく領海内に入ってこられると厄介だな。特にナットシャーマン諸島の周辺はだだっ広い大海原が多い。複数の艦隊で来られると守りづらいな。」
「それに関しては本国も状況を見て援軍を検討中です。」
キャメルに代わってラークが状況を報告した。
「現在、カールトン大将閣下が追加で一個艦隊の派遣、もしくは新設された陸軍か海兵隊の艦隊、あるいは地方警備艦隊を参集してこちらへ派遣するかで検討中です。もしかするとカールトン閣下自らがこちらへ来られるかもしれません。」
「第一艦隊が?」アドラーも流石に驚く。
「今回、カールトン閣下は本国で政治的な調整などを含めて対応して頂くという事で残留しているはず。まさか第一艦隊自らが出張っては来るまい。」
アドラーがそう否定的な見解を述べたがラークは話を続ける。
「えぇ、通常であればそうなのですが事態が事態だけに最悪の場合は・・・という事です。基本的に第一艦隊は動かないとは思いますが、増援の計画はあるという話は承っております。」
それを聞いてアドラーが安心した表情を浮かべた。
「うむ、それなら何とかなりそうだな。諜報部の情報では叛乱軍の海洋戦力は最大でも二個艦隊規模だとの見込みだ。余程の支援が無ければ大きく増えたりはすまい。」
一連のやり取りを聞いていたアヤメがやや心配げな表情でアドラーに進言する。
「ですが閣下、叛乱軍も正規軍を傘下に吸収して巨大化することも考えられます。また、叛乱軍と正規軍の艦隊同士の戦闘でこちらに被害が及ぶことも留意されておいた方がよろしいかと存じます。」
「無論だ、ランバージャック中佐、気遣い有難う。そう言えば皇子達の艦は既に修理が完了しているのだったな?」
「はい、閣下。昨日試運転も終わっていつでも出航可能です。皇子達も出発準備が済んでおり、いつでも出航可能です。」
「承知した、ランバージャック中佐。・・・で、貴官らの部隊の出発はいつ可能かね?」
「私の海兵隊は既に準備終わってますわ。スピークス中佐とメビウス中佐は?」
「小官はいつでも出発可能です。」
ラークが短く返答する。
「小官もです。艦隊は既に引き揚げ準備も終わっており、ご命令あり次第いつでも出航可能です。」
キャメルが艦隊状況を併せて報告する。
「了解した、貴官らは明日早々に本国に向かって出発してほしい。引き継いでおくことがあれば本日中に頼む。」
「承知しました、それではケント知事とサラトガ中佐への挨拶にご案内いたします。その前に、この迎賓館におられます皇子達との面会をお願いいたします。」
「承知した、スピークス中佐。これからすぐに行こう。」
司令部の会議室を出た一行は皇子達への挨拶に向かい、その足で知事とサラトガ中佐を訪問し引継ぎの挨拶を済ませた。
その後、アドラーは部下への指示を出すという事で艦に戻り、ラーク達3人は司令部に戻り本国帰還の最終チェックを部下たちに指示し出発の準備を整えていった。
翌9月17日朝、出港準備を万端に整えたラーク達一行は、皇子の艦を護衛しながら首都カナビスに向けて出港した。
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