第43話:増援到着

三人が頭を抱えている。

喫茶室のテーブルで。

将来を嘱望される三人の中佐が、そろって頭を抱えている。


「じゃぁ、まず決まった事から整理して行こうか・・・」

ラークがトーンの低い声で二人を見る。

「あぁ」「そうね」

キャメルもアヤメもトーンは同じだ。


「ではまず、今後の方針からだが・・・まず正式に皇子達の我が国への亡命が取り決められた。そして国賓として扱う事も。ここまでは大丈夫だな?二人とも。」

「そうね、そしてメルセリア本国のテューダー大公を支援するために、形だけだけど亡命政権の樹立とテューダー大公の支援、叛乱軍の逆賊認定を正式に行う事まで決まったわね。」

「そして、オーガスト皇子が初等士官学校への編入、丁度年齢的に1年生だからな。アルバータ皇女とルシンダ皇女もそれぞれ年齢と学年に合った学校に編入してもらう。それに伴い、海軍第一艦隊、陸軍第二師団、海兵隊第一軍団合同で警護部隊の選抜を行う。ここまでは間違ってないよね?ラーク。」

三人は会議のメモをテーブルの上にいくつも広げ、拾い上げては読み返し会談の内容を確認していた。


「あぁ、そこまでは間違いない。議事録もあとで上がってくるだろうから確認しなきゃならんがな。」

「俺たちの戦闘結果の報告と、大使館経由や諜報部門からの報告すり合わせも問題ないかな?」

「あぁ、特に齟齬は無かった。問題ないと思う。アヤメはどうだ?何かつじつまが合わないところはあるか?」

「特にないわよ、続けて。」


「それで、だ。」ラークが神妙な面持ちで二人に話す。

「ここからが大事だ。皇子達ご一行は当然カナビスに滞在してもらう。その為には警護もしやすく、他国の賓客を迎えても見劣りしない迎賓館が必要だ。そして、我々の司令部と国会の中間地点にぴったりの迎賓館がある。今、大急ぎで改装しているらしい。」

「聞いてるよ、ラーク。部屋数も多いし設備も極上の物だって言うから賓客が長期間滞在しても問題ないって聞いてるし。」

「うむ、そして皇子達ご一行がそこに入られる。これは決定事項だ。」

『うん』

他の二人が頷く。


「だが、なんで私達3人も今の住み慣れた官舎を出て迎賓館に引っ越さねばならんのだ・・・」


『命令だから仕方ない』

キャメルとアヤメがハモる。


「まぁ、政府としてもいきなり知らない街に連れてこられるんだから少しでも長く過ごしていた俺達が保護者代わりに適任と判断したんだろうねぇ・・・」

キャメルが壁を見つめながら遠い目をしている。


「レナードの婆ぁ・・・」

珍しくラークがお行儀のよくない言葉遣いをして、政府を罵っていた。ラーク達の引っ越しについては、レナード長官が強力に推してきたのだ。

『少年少女には保護者が必要です、スピークス中佐たちが年齢も一番近く、殿下達も慣れておりましょう。この任務には最適かと!』

「何が『最適かと!』だ、勝手な事ばかり言って・・・」

「でもラーク、軍人は命令が全てでしょ?それに皇子達も嫌がってなかったんだから。むしろ嬉しそうにしてたよ、慕われていると思って喜んだ方が精神衛生上もいいと思うよ。」

キャメルがどうどうと宥める。


「まぁそうだな。仕方ない、決定事項だからな。ただ、引っ越しの時間は余裕を貰うようにしておかないとな。めんどくさい・・・」

「ねぇ、ラーク。引っ越しとか皇子達との同居も大変なんだけどさ、16日には第四艦隊が来ちゃうよ?艦の修理は間に合うのかな?」

アヤメが心配そうにするのを横目にラークに代わってキャメルが応えた。

「あぁ、大丈夫だよ。大将閣下が予算増額してくれたから人も資材も大幅に増えたし、明日14日には修理が終了して試運転するよ。明後日には出航可能になるから、16日の第四艦隊到着には十分間に合うよ。」

「それならよかった~♪心配してたのよね。じゃぁ、私たちは本国への帰還準備を始めようかしら。」


「そうだな、それにしてもあっという間だったな。怒涛のようにと言うべきか・・・」

「確かに、戦闘も短かったしあっという間だったね。まぁとりあえず本国に帰る準備しますか。」

「そだね、キャメル。私も準備始めるよ~」


飲み終わったコーヒーカップをソーサーに置くと三人はそれぞれの執務室へと戻っていった。


その後、第四艦隊が到着するまで、ラーク達は皇子達を引き連れながらナットシャーマン諸島のあちこちを案内して回っていた。

パラセーリングや遊覧船、バギーでの渓谷ツアー等、普通の少年少女であれば経験しているかもしれない事をラーク達はとことんまで経験させようと遊び倒した。

皇子達も、あらゆるものが新鮮に映る異国の地で、ほんの一時いっときではあるが祖国の戦乱を忘れて幸せそうに楽しんでいた。

そして9月16日午前、予定通り第四艦隊がダビドゥスの港に集結した。

旗艦『ブルー・エンディミオン』のタラップを降りて来たギリアム=アドラー中将は40代半ば。一見すると文官にも見える穏やかな風貌だが、その視線は鋭い。

ダビドゥスの港に降り立ったアドラーをケント知事とラーク達が出迎え、司令部へと案内し今後の方針について打ち合わせた。


「出迎えご苦労、スピークス中佐。では、今後の我々の活動方針を決めるためにも、現状の報告と貴官の意見を具申してほしい。宜しく頼む。」


「承知いたしました、閣下。それではこちらをご覧ください。」


会議室のディスプレイパネルに今回の騒乱についての一連の報告書が表示され、アドラーが熱心に読み込み始めた・・・。

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