第37話:祭り①

司令部から出るにあたり、三人はある通達を出していた。

麾下全艦艇の総員に自由行動の許可を与えたのである。無論、最低限哨戒と戦闘がができる人員は交代で残しつつ、それ以外のメンバーに対し自由に外出し飲酒も可とする通達を出していた。

後ほど来る第四艦隊には及ばないにしても、ラーク達の麾下には男女合わせて2,000人近い兵員が所属している。

彼らがビール1杯飲むだけでも相当な金銭がダビドゥスに落ちることになる。

また、日帰りであれば遠方への観光もラーク達は許可していた。これにより、ナットシャーマン諸島のダビドゥス以外の他の島々への観光も可となった。

元々国内での艦隊遠征では駐留した現地で長旅のストレスを開放すべく、兵達に自由行動を与えるのが慣例となっていた。


今回はメルセリアから攻撃の不安があるとはいえ、戦闘後という事もあり州防衛隊の協力も得て、大きなストレスを抱えた兵員への自由行動を確保することとなったのだ。

「サラトガ中佐、感謝に耐えない。宜しく頼む。」

ラーク達は外出前に防衛隊司令部に立ち寄り、サラトガへの謝辞を述べていた。

「いやなに、構いませんよ。こういう時だからこそたくさん遊んであげて下さい。街の人たちも楽しみにしているでしょうし。警戒態勢は既に私の部隊が領海内を巡回しています。私もすぐに追いかけて警戒態勢を取ります故、お気になさらず。むしろたくさんお金を落としてください。」

デスクで書類にサインする手を止め、ゆっくりと立ち上がり敬礼をしながら、にこやかにサラトガがラーク達を迎えていた。

「えぇ、兵士達も喜んで出かけています。恐らくは明日の朝まで酒で使い物にならない者が続出でしょうが・・・ご迷惑をおかけします。」

キャメルも恐縮しながらサラトガに頭を下げる。

「いや、こちらも我が州だけでなく近隣の防衛隊も応援に呼び寄せておいた。一個艦隊未満ではあるが、頭数はそろえておいたよ。見た目だけなら簡単には攻め込もうとは思わんだろうね。安心して行って来てくれ。」

頭を下げる三人から視線を外すとサラトガはラーク達の少し後ろに控える三人の少年少女と気配を消しているウォーロックに声をかけた。


「オーガスト殿下、アルバータ殿下、ルシンダ殿下、ウォーロック閣下。折角異国の地にお越しになられたのです、今日ぐらいは戦乱を忘れて楽しんでおいでませ。ケント知事も既に町中に艦隊の駐留を触れ回っております。久しぶりの活況に皆、手ぐすね引いて待っておりますので。」

その言葉を聞いてウォーロックが一つの疑念を呈した。

「その事なのですが、我々も帝国通貨であるレマクは大量に持ち出すことができたので、お金自体は持っておりますし宝石や貴金属類も持ってきております。ですが、貴国の通貨であるデニルは流石に持っておらず、両替できれば良いのですが流石にこの情勢でレマクを交換してもらえるとも思えず・・・」

ウォーロックの言葉を受けて、サラトガが心配ないというようににやりと笑った。


「ご心配なく、今回特例ではございますが知事がクーデター前の通常レートで両替をしてくれるとおっしゃられております。」

「しかし、万が一クーデター派が勝利すればレマクは紙くずになりますぞ?」

「承知の上だと知事もおっしゃっております。それより折角国賓が来訪されておられるのに楽しんでいただけない方がよほどもったいない、と。その代わり、政権奪還の折には1.5倍のレートで買い戻していただければよいとの事です。」

「承知いたしました、感謝に耐えませぬ・・・」

ウォーロックが深々と頭を下げ、オーガスト達もそれに倣った。

「それでは早速両替に向かわれませ。銀行には既に話を通してあります。特段上限も設けておりませんので、今後の生活の為にも持ってこられたレマクを全て両替されておけば良いでしょう。5億や10億ぐらいでは我が州の金庫はびくともしません。それと、エルフィン国内共通の銀行口座を作られておくとよいでしょう。これがあれば国内どこでもお金が引き出せます故。」

一大交易都市としての自負をのぞかせながら、サラトガが皇子達を安心させるように自信たっぷりに両替を勧めた。

「ありがたい、早速向かわせてもらおう。」

ウォーロックが皇子、ラークが出発を促した。

「そろそろ参りますか。私たちも街に繰り出してウィスキーを飲みたいので・・・キャメルはどうだ?」

「あぁ、そろそろ喉が渇いてきた。冷えたビールが飲みたい。あと肉だな。アヤメは?」

「私はイカ焼きと焼肉串が食べたい。皇子達にも御馳走するよー」

「と言うわけで我々三人もそろそろ我慢の限界です。一刻も早く参りましょう。皇子達は何か御所望の物はございますか?」

ラークの問いかけに少年少女たちは考え込んだ。

「なにぶん私も妹達も余り市井に遊びに出るという事が無く宮殿での生活が中心でしたので・・・昔、帝都の祭りで寄ってみた屋台と言うものに行ってみたいです。」

オーガストの言葉に目を輝かせながらいち早く反応したのはルシンダだった。

「ガシー兄さまが屋台に行くなら私も行ってみたいですわ。あと、甘いものが食べたいですし、かわいらしいお洋服も着てみたいですわ。ローズお姉さまはいかがですの?」

「そうね、私も甘いものが食べたいかしら。帝都を出てから殆ど食べていないもの。後は街を散策してみたいわ、外国の街を自由に散策するのは私も初めてですもの。色々見てみたいわ。」

言葉遣いは皇族のそれであるが、目をキラキラさせて楽しそうに話す様子は未だ世慣れぬ少年と、無邪気に喜ぶ姉妹そのものであった。

「貴国の帝都や我が国の首都ほど娯楽が豊富な町ではございませんが、我が町も十分に楽しめる街と自負しております。是非とも楽しんできてくださいませ。」


その後、銀行で莫大なレマク紙幣をデニル紙幣に両替し窓口担当者の頬を引き攣らせた後に口座を開いて安心させ、7人は今度こそ町へと繰り出していった。

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