第三項:帰還と弛緩と
第36話:皇子達の願事
「これから・・・ですか?」
ラークが問う。
「そうだ、基本的には会談の日程を調整し実施後、貴官らの護衛で首都へと帰還してほしい。」
「はい、それはもちろん。」
「その後だが、今回のメルセリアの叛乱は我が国への侵攻の可能性が大きい為、防衛戦力の強化を行う事になった。」
「防衛力の強化?」
アヤメがモニターを見上げる。
「そうだ、緊急時の措置ではあるが、一時的に私が総司令官として第四艦隊を私の指揮のもとそちらに派遣することになった。」
「アドラー中将の?」
キャメルの確認にカールトンは大きくうなずき説明をつづけた。
「そうだ、アドラー中将はベテランだが第四艦隊に異動して来たばかりだ。今回、艦隊の練度と親密度を高めるために、訓練航海と言う名目でナットシャーマン諸島に派遣することが急遽決まった。既に中将は出撃準備を整え、明後日にはそちらに向けて出港する予定だ。」
「随分と速い決定ですな、普段の政府首脳部とは大違いだ・・・」
軽い皮肉をラークが投げつける。
「そう言うな、それだけ今回の件は重大事という事だ。それに、今回のクーデターがそちらの経済に与えている影響も無視できん。第四艦隊には現地でたっぷりお金を落としてもらう予定だとも聞いている。それに抑止力としては1個艦体の駐留は十分すぎるだろうし、治安面でも大きな武力を必要としているからな。」
カールトンの説明に三人も納得した。
「承知しました、よろしくお願いいたします。それでは私たちのダビドゥス出航はアドラー中将の到着を待って?」
「その方がよいだろう、オンライン会談の日程も併せて調整する、連絡を待つように。ないとは思うが叛乱軍の領海侵犯には最大限警戒してくれ。それでは失礼する。」
『承知いたしました。』3人の敬礼にカールトンが答礼し、通信が切られた。
「さて、色々めんどくさくなってきたね。」
ドカッと椅子に腰かけたアヤメがやれやれと言う感じで傍らの同僚に愚痴る。
「まさか異動の辞令を受けた時はこうなるとは思ってなかったけどねぇ、そう思わない?ラーク。」
「そうだな、色々忙しすぎるが軍人はこれが仕事だからなぁ。叛乱軍との遭遇戦も結局大きな戦闘には結びつかなかったしな。一先ず誰も欠けることなく帰れるのは良かったと思う。」
その時壁の内線が鳴り響き、アヤメが「はいはーい」と来客に対応する主婦の様な気軽さで端末を手に取った。
「うん・・・うん・・・了解、報告ご苦労。」端末を置き二人に向き直る。
「何の連絡だ?」
キャメルの問いかけにアヤメが応える。
「皇子様達が帰って来たって~、30分後に応接にこれないか?って。」
「承知した、祖国を追われて寂しい思いをしている皇子様皇女様の心を慰めるために拝謁に参りましょうか。」
珍しく笑えない皮肉を放ったラークを珍しそうに二人が見つめる。
「笑えない皮肉ねー・・・ラーク、あなたストレスでも溜まってるの?」
「大丈夫か?何なら少し休むか?王子様達の対応なら俺たち二人だけでも大丈夫だぞ。」
「あぁ、すまない。大丈夫だ、少し疲れているかな・・・これが終わったら休ませてもらう。すまないな、二人とも。」
「一人で無理すんなよ、俺達だっているんだからな。」
「あぁ。」
30分後、三人の軍人が三人の皇子達と応接室で面会を行っていた。
「如何されました?殿下。」
妙に元気のないオーガストにラークが声をかける。艦を臨検した際にはあまり出てこなかったが、今回は複数の使用人がそれとなく配置されている。漸く警戒態勢が解かれたという事だろうか。
「スピークス中佐!」「ラークとお呼びください。」
「ラーク殿!」「まぁ良いです、それより何でございましょう?」
「すまない、こんなことを頼めた義理ではないのだが・・・」
妙に言いよどむ第一皇子。
「如何されたのです?随分とお悩みになられておられるようですが。」
「うむ・・・妹達の事なのだが・・・」
「はい。」
「しばらく逃亡生活をしていたせいか、やはり精神的にも参っているみたいでな・・・息抜きをさせてほしいのだ。」
「であれば兄上である殿下が町中を連れて歩けばよいではございませんか。幸いここダビドゥスは国内有数の観光地で歓楽街。今でこそ交易が途絶えているため街の雰囲気も下がっておりますが・・・。小官達が護衛も致しますし、殿下たちの行動も逃亡でも図らない限り制限はされておりませんが・・・?」
「それが・・・やはり行きたいところが女の子らしい店で、私ではちょっとわからない者ばかりなのだ。そこで、できればアヤメ殿に二人の警護を兼ねて付き添ってもらえないかと思ってな。お願いできないだろうか?」
「アヤメ、どうだ?」
「うーん、私は構わないけど一応カールトン提督に許可だけは取っておいた方が・・・」
「そうだな、ものの10分もあれば終わる話だし、ちょっと連絡を取ってみてくれ。」
「わかった、行ってくるよ。」
10分後指でOKを作りながらアヤメが戻ってきた。
「ぜひ行って来いってさ、やっぱり皇女様達の年齢が年齢だから孫みたいなもんだし甘くなるのかねぇ~。」
ラークがにこやかな笑顔でオーガストに向き直る。
「殿下、本国司令部の許可も下りましたので早速参りましょう。」
その笑顔にやや気圧されながら皇子はラークに応える。
「あぁ、妹達とアヤメ殿で行ってきてくれ。」
「何をおっしゃるんですか、皆で行きますよ。どうせ会談までは暇なのですから、観光しない手はありません。もったいないですよ?」いつもの倍以上にこやかなキャメルがオーガストに圧をかける。
実際、ラーク達もオーガストが皇子としての責任を一人で背負い込もうとしていることに危惧は覚えていた。自分達より10以上も幼い少年が孤軍奮闘しているのだ、大人としては多少無理してでも息抜きに連れ出すべきであろうおせっかいに考えていた。
「・・・わかった、貴官らにエスコートを頼もう。宜しく頼みます。」
「聞いての通りですウォーロック閣下、良いですかな?」
敢えて壁の花となって気配を消していたウォーロックは静かに微笑んでうなずいただけであった。
圧に屈したオーガストは、ラーク達に護衛されながら妹達と一緒にダビドゥスの町に出かける事を承諾したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます