第38話:祭り②

皇子達と一緒に街に出たラーク達三人は、彼らの警護担当を決めていた。

オーガストはラークが、アルバータはキャメルが、ルシンダはアヤメがそれぞれ付かず離れず警護を担当する。これはラークが皇子達の様子を観察し、誰が誰に一番懐いているかを判断した結果である。

ウォーロックは基本的にはオーガストとラークに同行し、皇子達の異変に即応できる態勢を取る。街ブラは基本的に自由散策とする。


基本的な方針を決めたラーク達はいよいよダビドゥスの中心地であるプリシア通りに皇子達を連れ突撃していった。

既に駐留艦隊の兵士達がそこかしこで休暇を楽しんでおり、クーデター発生後は活気を失いがちであった中心市街地は久々に往時の活況を取り戻していた。

酒も許可されているからか、そこら中から陽気な笑い声が聞こえる。

酒を飲まない者も、故郷の家族に向けた土産物を探しに名産品や宝飾品を購入しに様々な店に吸い込まれて行く。

両手にたくさんの荷物を抱えた兵士が、故郷への配送手続きをするために黒いトラのマークを掲げた配送業者の店舗に入っていく。


『黒トラ急送』はエルフィン首都カナビス発祥の運送業者で、国内全域を網羅するだけでなく、東西両大陸にも近年は拠点を開設するグローバル企業となっている。今回のクーデターで近日開設予定であったメルセリア支店は一時開設が延期され、派遣されていたスタッフは大使館経由で非戦闘員として既にダビドゥス迄脱出してきている。

隊内恋愛であろうか、若い男女の兵士がアクセサリーショップで指輪やネックレスを品定めする。


束の間の平和がそこにあった。


軍服姿のカップルに気づいたウォーロックが難しい顔をしながらラークに尋ねた。

「貴国では隊内の恋愛も認められておるのですか?」

「ん?特に禁止もしておらんが認めてもおらんと言う所ですね。但し、勤務に支障が出てくるようなら配属は再考しますが、無理やり別れさせるというようなことは無いですよ。恋愛はどうしようもないですからね、無理に禁止するより自主性を重んじてある程度自由にさせています。ただし、刃傷沙汰は論外ですが人間関係のいざこざに発展させた場合は降格を含めて厳罰です。」

「なるほど、帝国では隊内恋愛は厳禁とされていますからな、結婚するなら男女どちらかが予備役となって軍務を辞めなくてはなりません。」

「それは厳しいな、しかしそれだと女性の方が退役する率が高くなってしまうのではないですか?」


「以前は軍務は男性中心と言う考えが多数派でしたので結婚に伴う退役は女性が多かったですが、近年は男性が退役して転職する事例も増えてきてますな。大体4割位が男性の退役で占めております。ただ、軍内部での結婚自体が我が国では極少数派ですな、現在では年10件もありません。我が国では男女ともに軍人はステータスが高いので男女問わず結婚相手として引っ張りだこなのです。片方が失職する隊内結婚より、外に結婚相手を求めた方が経済的にもいいという事です。」

そこまで喋ってウォーロックの顔が曇った。キャメルがそれにいち早く気づく。

「・・・もしや准将閣下は細君や御子息が・・・」


無言でウォーロックは頷く。


「・・・私の場合はたまたま単身で帝都に来ていたからよかったものの、妻子は未だ帝国におる。今回のクーデターとは無縁の地方都市に住んでいるから今の所影響はないと思うが、私の立場があるから今後はどうなるかわからん。テューダー大公を頼る様に手紙を届けさせたが届いているかどうか・・・」

「なるほど、そうでしたか・・・今は信じるしかございませんが、私から艦隊司令部を通じて閣下のご家族についても情報を集めてもらうように働きかけてみましょう。どれほどお力になれるかはわかりませんが・・・。」

「お気遣い感謝する。だが、貴官の立場もある、それを悪くするようであればお断りいたす。メビウス中佐。」

「ご安心を、我々の司令官はまぁまぁ話の分かる方です。そう悪い結果にもならんと思いますよ。なぁ、ラーク?」

「メビウス中佐の言う通りです、話だけはしてみますよ。それより、折角なので少しだけでも楽しんでいきましょう。皇子達も心配そうに見ていますよ。」

「・・・そうだな、折角の休暇に水を差すわけにもいかんし私も少しは楽しませてもらおうか。」

「その意気です。ダビドゥスは交易都市ですから世界中の旨いものがございますし、是非楽しんでください。」

ラークの言葉に漸く笑顔を見せたウォーロックであった。


笑顔に戻った准将をみて漸くホッとしたのか、皇子達3人は屋台に向けて吸い込まれて行った。

程なく、いくつもの紙袋に串焼きや饅頭、サンドウィッチや飲み物を兄弟仲良く3人で抱えてラーク達の元に戻ってきた。

「まずは腹ごしらえをします。」

少しはにかんだような笑顔でオーガストが二人の妹と共にベンチに座って旺盛な食欲を全開させた。

皇族とは思えぬ健啖ぶりを発揮し、次々と食べ物が3人の胃袋に吸い込まれて行く。ラークが隣をふと見ると、ウォーロックが口をあんぐりと開けていた。

「閣下・・・普段の3人とはだいぶ違うのでは?」

「あ、あぁ。普段から食欲旺盛ではあるが、自由になったとたんここまでがっつくとは思いもよらなかった。いや、年相応の子供らしいというか・・・うむ。」

何となく納得したような表情で頷く。

「まぁ、王宮で見せる表情も、ここで屋台飯をがっつく姿も両方とも本物の3人なんでしょう。子供らしくて良いと思いますよ」

キャメルがほほえまし気に3人を見つめる。

「いいねー、あの3人見てたら私もお腹空いてきた。適当に買ってくる~♪」

そう言ったかと思うとアヤメがあっという間に屋台村に消え、5分後には数十本は入っているであろう焼肉の櫛を左手に、右手には2リットルはあろうかと言う手提げ付の缶に入ったビールを片手に戻ってきた。

「お前な・・・」

ラークがやれやれと言う表情で顔を覆う。

「細かい事は気にしない♪」

早速串にかぶりつくアヤメ。


その時、祭りで賑わう中ひときわにぎやかな声がどこかから聞こえる。

自然と7人は声のする方へと引き寄せられていく・・・。

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