第32話:皇子達との会談①
扉の中に入るとそこは派手ではないが堅実さが見て取れる調度品と来客用に応接用のソファと大理石のローテーブル、会議用のタッチ式ディスプレイパネルが埋め込まれたマホガニーのテーブルがあり、部屋の奥には皇族が鎮座するウォールナットでしつらえた執務用の机があり、そこには一人の少年が座っていた。年のころは15・6歳位だろうか?
応接用のソファには更に若い、姉妹と思われる女性二人が座っていた。
三人共疲労の色は隠せていないが、特段深刻な体調不良を起こしているわけでもないようだった。
恐らくは、と言うか当たり前ではあろうがこの3人がメルセリアを脱出して来た皇族であろう。少年の方は絵にかいたような金髪碧眼の美男子、少女二人はブラウンゴールドの長い髪と少し青みがかったグリーンの瞳。三人共息をのむほど美しい。
キャメルがさりげなく部屋を見回すと視界に入らないように従者が配置されており、主の命令を待っている。アヤメは警備兵の気配を敏感に感じ取っていた。多くはない、二名程度か。
ウォーロックに先導され三人の皇族に謁見する。
デスクに腰掛けた少年が、ラークに話しかけた。
「貴官が代表者でしょうか?お名前をお伺いします。」
およそ皇族とは思えぬ腰の低い言葉遣いと温和な口調。ラークを見つめる目には鋭さがあるが、不安の色を見ても取れる。とてもミドルティーンの瞳と態度ではなかった。さすがは皇族としての教育を受けたという事だろうか。
「はっ!小官はエルフィン南方海洋同盟国海軍所属、第一艦隊麾下別動隊隊長、ラーク=スピークス中佐でございます、閣下。後ろに控えます二名は陸軍中佐キャメル=メビウスと海兵隊中佐アヤメ=ランバージャックでございます。此度は御目通り叶いまして誠に恐悦至極に御座います。」
ラーク達の敬礼と直立不動の姿勢は普段部隊内で見せるやや軽いものとは違い、賓客に対する最大の礼儀を守ったものであった。
サラトガも敬礼したが、今回彼は彼らより後ろへと一歩引いている。
何故なら、ここから先は『メルセリア』皇族と『エルフィン南方海洋同盟国』代表の話となるのだ。ラーク達と階級は同格と言え地方行政府管轄の指揮官である彼は立場をわきまえ、今回ラーク達に交渉を任せなければならなかった。
「ありがとう、もうご存じとは思うが私はメルセリア帝国第二皇子オーガスト。『ガシー』とお呼び下さって結構です。そしてそこのソファに座っているのは私の妹達で、姉の方は第一皇女のアルバータ、妹の方は第三皇女のルシンダです。」
オーガストの紹介で二人の妹はすらりとした動作で立ち上がり、二人そろって見事なカーテシーを披露した。
「メルセリア帝国第一皇女アルバータに御座います。どうぞ『ローズ』とお呼び下さいませ。」
「同じく第三皇女ルシンダ、『ルシル』とお呼びくださいませ。」
ラーク達が最敬礼で皇女たちの挨拶に応えると、アルバータが3人をソファに座る様に促してきた。
3人が流石に皇族と相席になるのをためらっていると、皇女が3人の前に歩み出てきた。アルバータがキャメルの、ルシンダがアヤメの手を取りソファに案内していった。その後をラークが歩き、3人はソファに腰掛けた。それを見届け漸く皇女たちも再びソファに腰掛けた。
「同行の皆さまもどうぞおかけくださいませ・・・」
サラトガ以下同行者たちは促されるまま後方の会議用テーブルに着席した。
皆が着席したのを見届けるとオーガストも皇女たちの間に座り、開口一番3人への謝辞を述べた。
「この度は誠に有難うございました。おかげさまで私たちも命拾いを致しました。」
皇子の言葉にラークが頭を下げた。
「恐れ多いお言葉です。もう少し早く到着できていれば被害も少なくて済みましたでしょうに。」
「いや、命があっただけでも十分だ。IFの話をしても詮無いですからね。それよりも早く今後の事について貴国の判断をお伺いしたい。」
オーガストが問いかけるとラークに代わってキャメルが応えた。
「スピークス中佐に代わりお答えします、皇子殿下。改めまして、小官は陸軍中佐キャメル=メビウスと申します。どうぞキャメルとお呼びください。今回、小官らはクーデター発生の報を受け、我が国と貴国を繋ぐナットシャーマン諸島の安全確保と周辺調査の任務を受けまして当海域にて哨戒会活動を行っておりました。その中で、任務として受けたものの中に貴国から脱出してくる者は官民問わず保護の対象とすると命じられております。」
続いてアヤメが説明を代わった。
「改めまして小官は海兵隊アヤメ=ランバージャック中佐と申します。アヤメとどうぞお呼びください。今回、小官らは領海及び公海上の安全確保と情報収集が主任務ですが、脱出して来られた方々は亡命希望者として丁重にお迎えしろと任務を仰せつかっております。つきましては、殿下方には一度首都カナビス迄お越し頂き、そこで我が国の政府と会談に臨んで頂きたく存じます。」
オーガストがアヤメの説明に反応する。
「だが、それでは貴国にメルセリアの皇族が人質に取られているようなものにならぬか?」
ラークが補足した。
「当然、その懸念はあると存じますし我々もダビドゥスに政府高官を招いての会談でもよいかとも考えました。しかし今回既にグラナドス辺境伯領が陥落し、ディペラン-ダビドゥス間航路が使えぬ以上、叛乱軍がナットシャーマン諸島に侵攻する可能性も捨てきれません。殿下たちがダビドゥスに滞在していると知れれば要らぬ侵攻を招き入れる可能性もございます故、皆様方の安全確保にも最適な場所という事で首都にお越し頂きたい次第でございます。」
「・・・わかった、貴殿らを信用しよう。」
一部、キャメルとアヤメの創作による説明が入り混じっていたが、オーガストは納得した風でうなずいた。
「ローズ、ルシル。構わないか?」
優しい兄の表情したオーガストが、二人の妹の顔を交互に見比べた。
「お兄様がお決めになられたことに反対はございませんわ、ねぇルシル?」
「えぇ、お兄様が信頼されるのであれば反対はございませんわ。お姉さま。」
二人の妹の同意を取り付けた兄は、再び皇子の顔に戻り更に会談は続いていく。
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