第33話:皇子達との会談②

「ところで殿下。」ラークがオーガストに問いかける。

「何でしょうか?」

「アルバータ皇女殿下についてなのですが・・・ルシンダ皇女殿下はルシル、オーガスト皇子殿下はガシーと言うのは愛称としてわかるのですが、ローズと言うのは・・・?」

「あぁ・・・」

苦笑しながら皇子が説明した。

「バラの品種にアルバータインと言うのがありまして、それでアルバータが自分の愛称をローズにしだしたのです。確か、大昔に召喚したサモンズ達の中にバラに詳しいものがいてそのものが呼び出された元の世界にあった品種の名前らしい。」

「確か、召喚の儀式も初期は人間だけでしたが、その内に異世界の植物や動物も召喚して研究、繁殖などをして行くようになったのでしたな。」

「あぁ、その時に召喚された動植物が現代まで生き残っているのだからな、驚きだ。」

「左様でございましたか、お話お伺いできまして有難く存じます。」

一礼したラークにオーガストが少しトーンを下げた声でさらに話しかけた。


「さて、与太話はここまでにして・・・貴国に亡命した後我々はどうなる?貴国にずっと滞在し続けるわけにもいかんし、テューダーの叔父上が自領で反撃の準備を整えているはずだ。先ほども言ったが人質として取られるような真似になるのであれば承知は出来ん。」

「ご安心を、少なくとも我が国には殿下たちを人質に交渉する気はございません。あくまで状況が落ち着くまでご逗留頂くと思っていただければ・・・」

ラークの説明にオーガストはさらに言葉を続ける。

「それは承知した。だが、あくまでその言葉はこの場での貴官の言葉だ。上層部との会談を貴国に赴く前に行っておきたい。」

「承知いたしました。それではいったんダビドゥスに戻りまして、そこでオンラインでの会談準備を急ぎ行いましょう。その上で納得いただきたく存じます。キャメル、これが終わったらすぐに本国と日程調整してくれ。」

「わかった。すぐに手配しよう。それと、この艦の補修についても説明しておいてくれないか?」

「そうだったな・・・殿下、この艦はこの場でいったん修理を行うために停泊します。簡易の修理ですが、ひとまずダビドゥスに到着させるまでのものとお考え下さい。その後ダビドゥスのドックで本格的な修理を行います。その間に会談を設定いたしましょう。恐らく、完全修理には最低1週間以上はかかるものかと。それと、既に本日は日も遅く暗くなっております。修理はこれより取り掛かりますが、移動が危険と判断された場合はここで一晩過ごす事もお覚悟くださいませ。」

そうラークが告げると皇子達が不安そうな表情を浮かべた。やはりこういうところはまだ年相応の少年少女だ。

その表情を見てキャメルが安心させるようにやさしい笑顔を見せながら三人に話しかけた。


「大丈夫ですよ、我々の艦隊が寝ずの番をしておりますし、作業艦の方たちも航行可能になるまで全力で修理に取り掛かります。サラトガ中佐の艦隊も合流して、先ほどの艦隊よりは数で勝ります。ご安心ください。」

「そうよ、それにこの船に敵さんが乗り込んできてもすぐに叩き出すから安心して。海兵隊がいれば百人力だから」

白い歯を見せガッツポーズをしながらアヤメが皇子達に笑いかける。彼らなりに緊張をほぐそうとしているのだろう。

「お気遣い、いたみいる。この身柄は貴官らにお預けします。何卒良しなにお願いします。艦の修理もお任せしますので好きなようにやってほしい。」

「承知いたしました、全てお任せくださいませ。悪いようには致しませんので。」

ラークも承諾されて内心ほっと一息ついていた。彼らも長い逃避行で精神的に参っている部分もあるのだろう、ごねられるかと思ったが案外あっさりと同意を得る事が出来た。


ラークは会議テーブルに座る作業艦のメンバーへと向き直り指示を出した。

「話は聞いていたな?作業艦のメンバーは早速応急修理に取り掛かってくれ。当面ダビドゥスまで航行できれば良い。本格的な修理は港に戻ってから行う。ドックの空きを確保しておくことも忘れないように。大丈夫だとは思うが時間が長引けば夜襲の可能性もある、なるべく急いでくれ。それと警備兵は三名ほどこの艦に残って作業班の警備に当たってくれ。」

作業班が一斉に立ち上がり敬礼すると、全員が部屋から退出し艦の応急修理に向かった。その後を警備兵が追いかけていく。

その様子を見て皇子達は再び頭を下げた。

「よろしくお願いします。」


一通り当面の処置が終わったのち、会談の続きが再開された。

「さて、殿下。」

ラークが先ほどとは少し声のトーンを変えてオーガストに質問する。

「今回のクーデターについて、メルセリア本国の様子と殿下たちが脱出したいきさつを教えて頂きたいのですがよろしいですか?」

「・・・」

黙り込む三人。流石に話しづらい事もあるのだろう、表情が曇っている。

数秒の重い沈黙が流れた後、後ろで控えていたウォーロックが助け舟を出した。


「殿下、流石に我々へ手を差し伸べて頂いている方々に無言と言うわけにも参りませぬ。ここは私めがご説明申し上げましょうか・・・?」

「・・・うむ・・・」

膝の上でこぶしを強めに握り、わずかに絞り出すような声を出したオーガスト皇子、その様子を見ながらラーク達もうなずいた。キャメルがラークに代わって応じる。

「構いません。我々もまだお若い殿下たちにつらい話を無理やりさせるつもりもございません。ウォーロック閣下からお話しいただければそれで大丈夫です。」

「ありがたい、感謝する。」


「それでは、少し長くなりますが今回のいきさつについて私からお話させて頂きます・・・」

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