第31話:臨検と対面

その後、ラーク達はサラトガ隊と帰還途上の海域で合流しメルセリア艦の合同臨検に臨んだ。

取り締まりの意味もないわけではないが、どちらかと言うと叛乱軍に攻撃された艦艇の破壊箇所を確認し、ラーク達の艦隊に同行していた作業艦に修理をさせる目的もあった。目に見えない所に致命的なダメージが無いか、航行上重大な支障の起きる可能性のある損傷が無いかなどを確認する為だ。

ラーク達三人とサラトガ中佐、そして作業艦の整備兵と警護要員の同行でメルセリア側の実質的な代表者であるウォーロック准将とキノトグリス艦内の応接室で面会した。


「准将、この度は臨検に応諾頂き有難うございます。皇族の皆さまも乗船されておられる中、大変不敬かとは存じますが艦の損傷の修理も致したく存じますので、しばし御辛抱のほどよろしくお願いいたします。」辞を低くしてラークがウォーロックに臨検の許可を求めた。

「いや、こちらこそ叛乱軍の追撃を受けて逃走中に、貴国の艦隊に迷惑をかけてしまって申し訳ない。臨検については存分に見て行ってほしい。対外交渉の責任は小官に一任されている、安心して調べてほしい。ただ、皇族の方々が此度の叛乱で精神的に参っている。そこだけは配慮してほしい。」

アンガス=ウォーロック、メルセリア帝国軍准将。50手前の老練な武人である。

ウォーロックも保護された立場はわきまえている。生殺与奪を握る相手に対し頭を下げつつも、守るべき対象に寛大な対応を求めた。

「ご安心を、小官としては武装解除にも素直に応じて頂いておりますので危険とはみなしておりません。ただ、艦の修理が必要と考えておりますし、万が一叛乱軍により艦に罠が仕掛けられていた場合なども考え修理とセキュリティのチェックを考えておるだけでございます。皇族方の身辺は極力乱さないことをお約束いたしますのでご協力のほどお願いいたします。」

ラークの言葉に再びウォーロックが頭を下げた。

「感謝に耐えませぬ。何卒良しなに・・・早速見て頂きましょう」

ラーク達がうなずき、艦の臨検に向かった。


メルセリア帝国皇族専用戦艦、ノイエ=メルセリア級三番艦『ドリット=メルセリア』。基本的にこのクラスは皇族が司令官として座乗艦にするための旗艦用戦艦である。基本スペックや戦闘能力については通常の旗艦用戦艦より3割以上チューニングされており、戦闘時の能力や撤退時の速度を向上させることに主眼が置かれて開発された艦である。

戦艦としての能力もさることながら、皇族が快適に過ごすための居住性も高レベルで作り込まれている。


絢爛ながら質実剛健さも併せ持つ特別な戦艦の中を、ラーク達が臨検を行っていた。サラトガ中佐が年長者としてウォーロックと並んで先頭を歩き、その後ろをラーク達3人がついていく。その後ろを作業艦の技術者たちが破損個所のチェックを行い、警備隊が最後尾をついていくという形だ。

特段不審な点もなく、破損個所のチェックを行った後に作業艦の技術者たちはメルセリアの士官に案内されて機関部や艦橋などの重要な部分の損傷状況を確認に別行動となった。警備隊も念のため半数が彼らについていく。


「特段不審な点もないようですね。これと言った問題もないようです。後は作業艦の者達が帰ってくるのを待って終わりとしましょうか。」サラトガがウォーロックに話しかける。

「ありがとうございます。作業艦の方々に破損個所まで見て頂いて申し訳ない。」ウォーロックが深いお辞儀で謝意を示す。

「そうかしこまらないで頂きたい、我々としても疑っているわけではないのですから。これからひとまずダビドゥスに向かいますがそれまでこの艦が航行に耐えられなければ大変ですからな。スピークス中佐、貴官は何か問題があると感じたかね?」

「いや特に感じていないな、サラトガ中佐。貴官の言う通り後は技術者たちの報告を待とう。」

「承知した。」サラトガが短くうなずく。


「ところで・・・」サラトガ中佐がウォーロックに質問する。

「皇族の方々への御目通りは無くてもよいのですか?これだけ大掛かりに臨検をした上、我が国へ来ていただくのだ。ご挨拶ぐらいはしておかねば失礼に当たるかと。」

「無論です、サラトガ中佐。既に皇族の方々は応接室を兼ねた艦内の会議室にてお待ちになられております。技術者の方々がお戻りになられましたら変な疑いをもたれない為にも直ぐに参りましょう。」

「それはお心遣い痛みいる。噂をすれば戻ってきたようだ。」

その言葉に皆が振り向くと、案内役のメルセリア士官と談笑しながら技術者たちと警備兵が戻ってくる姿が見えた。


その様子を見たラークが「あの様子ですと大分打ち解けたようですな。」と話し、技術者たちの責任者に調査結果の報告を求めた。

「報告します!機関部他損傷個所がございます。長期の航行に耐えられる状況ではないかと思われますので、当海域にて応急修理をしたのち、ダビドゥスのドックにて本格的な修理が必要と考えられます。一先ず応急修理をすれば通常速度での航行は可能です。また、警備隊にも確認してもらいましたが艦内に皇族方を狙ったテロリストなどの潜伏は見当たりませんでした。」

責任者が敬礼しながら報告する。

「ご苦労、貴官らもこのまま同行して皇族方へのご挨拶をするように。粗相のないようにな。」

「はっ!」

敬礼と共に彼らも再び合流し、全員で会議室へと向かった。


その後、艦内をしばらく歩き遂に会議室前に到着した。会議室とは言え皇族が応接室としても使う部屋だ。扉は重厚な欅材の扉、そして青銅製の獅子のオブジェが咥える同じく青銅製の重厚なドアノッカー。

ウォーロックがドアノッカーを手に取り二度重い音を立てる。

程なく扉の向こうから『誰か?』と男性が誰何する声が聞こえ、「アンガス=ウォーロック准将に御座います。お話いたしておりましたエルフィン南方海洋同盟国の方々をお連れ致しました。」

『入れ』


短い返答を受け、ウォーロックが扉に手をかけ押し開いた。

見た目ほど重くない扉が静かに開き、いよいよ皇族との面会が始まった。

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