第30話:EXILED NOBILITY

撤退完了後、、ラーク達三人は再びブリーフィングルームに集まった。

「・・・サラトガ中佐には出撃までしてもらったのに活躍の場が全くなかったね・・・」

アヤメが食堂からかっぱらってきたイチゴパフェをつつきながら後方で待機していた中佐に思いを馳せていた。

「それに、敵艦での白兵戦もなかったしさぁ・・・はう。」

やや不満げにデスクに突っ伏してうだうだする彼女に、キャメルが説教をする。

「サラトガ中佐はむしろ今回巻き込まれなくてよかったんだ、彼が巻き込まれる状況は取り返しがつかないほど戦線拡大している状況とも考えられるんだ。今回本格的な戦闘は控えろと言われているしアヤメも見せ場はあったじゃないか。こちらの被害なしで最大の成果があったとみられるんだから文句言わない!」

「はーい」

子犬の様にしょんぼりしたアヤメは再びパフェをつつき始めた。


キャメルはアヤメからラークに向き直り彼に問いかけた。

「で、ラーク。これからどうする?輸送艦達と合流するまでもう少し時間がある。保護した艦艇についても色々調べなくてはならんだろう。」

「そうだな、ひとまず後方との合流だな。その上でサラトガ隊に迎えに来てもらってから艦の臨検だな。」

「そうだな、勝手に臨検もできんからサラトガ隊には知事に許可を貰って俺達とサラトガ隊合同で臨検をして、保護した人員の面通しかな。細かい取り調べはダビドゥスに戻ってからにした方がよいだろうな。」

「その辺はキャメルの方が経験もあって得意だろうし、お前さんの指揮に従うよ。アヤメ、俺とお前はキャメルの指示に従うぞ、いいな?」

「わかったー」

最後の一すくいをもぐもぐしながらアヤメが返事する。

「でも、相手はメルセリアの皇族でしょ?どんな人たちが乗っているの?キャメル。」

「詳しくは連絡が来ていなくてな・・・」

その瞬間、内線が高めのコール音を鳴り響かせた。キャメルが内線を取って艦橋と何かを話している。すぐに通話を切ったキャメルが二人に向き直った。


「どうやら例の艦が補給艦達と合流したらしい。この艦隊もあと20分ぐらいで合流するそうだ。サラトガ隊は俺たちが合流した後30分ぐらいで合流できるそうだから、このまま補給艦と合流して一刻も早くサラトガ隊と合流しよう。何か向こうに指示しておくことはあるか?ラーク。」

「ひとまず向こうの指揮官を武装解除の上呼び出して身分の確認だけさせてくれ。後は乗船しているメンバーの名簿の提出を要請してくれ。拒否するようなら一旦その場は承諾して俺たちが合流後に拘禁しよう。ダメージを受けているとはいえ戦闘能力を持つ艦艇だ。こちらの後方部隊は戦闘力は皆無に等しいからな。刺激しすぎて暴れられても困る。」

「わかった、連絡しておこう。」


キャメルは再び内線を手に取り、艦橋にラークの命令を伝えた。

だが、ラークの指示にアヤメが疑念を呈した。

「まぁ、大丈夫とは思うけど万が一暴れられたらどうする?補給艦達がやられたらちょっとシャレにならないよ?」

「まぁその場合多少被害は出るだろうが、奴らもそこまで短慮ではないと思うぞ。その場は良くても後はどうしようもないんだからな。逃げようにも距離的にも近すぎて逃げ切れんからな、あの船じゃ。もし輸送艦を奪っても速度面では俺たちがすぐに追いついてしまうわ。」

その答えに納得したようにアヤメがうなずいた。

「それもそうね。まぁ、一刻も早く合流しましょ。」

「あぁ。それとアヤメ、知事にサラトガ隊と合流で事前臨検を行いたい旨許可を取ってくれ。万が一にもダビドゥスに火種を持ち帰るわけにはいかないからと伝えておいてくれ。」

「りょ~かい」


その後、艦の代表者としてウォーロック准将が要請に素直に応じ、武装の解除と身分確認、名簿の提出まで順調に進んだという報告を受けて艦橋の指揮卓に座したラークは内心安心していた。もしかすると罠かもしれないという疑念はわずかにぬぐい切れなかったからだ。

後方部隊と合流後、部隊陣形を再度整えなおしサラトガ隊と合流するためにダビドゥスに向けて行軍を開始したラーク一行。その後ろを静かについてくるメルセリア艦。

補給艦艦長から渡された名簿を艦橋の指揮卓で読みながらラークは驚愕した。

「キャメル、アヤメちょっと来てくれ。」

「なんだ?」「どしたの?」

キョトンとした二人が集まる。

「准将から預かった名簿だが、これを乗船している人員を見てくれ・・・」

「どれどれ・・・おっ?!」「え、これって?!」

驚愕する二人。

「あぁ、想像以上の大物が乗船していたみたいだ。俺達よくあの追跡部隊から無傷で逃げられたな・・・」

ラークが呟く。

「向こうもここまでの大物が乗っているとは知らなかったかもな。もしこのメンバーだと知っていれば多分あの倍以上の編成で本気になって追いかけてるよ。多分保護も無理だったろうな・・・」

キャメルが首筋を撫でながらため息をついた。

「多分、私たちの魚雷も敵さんが油断していたから通用したのかもね。本気で対魔防御を敷かれていたら勝ち目がなかったかも。」

アヤメもいつもと違うトーンでキャメルの声に応えた。

「恐らくな・・・運と偶然に救われた可能性も高いが、まぁ戦果は戦果だ。生き残れてよかったとしよう」

ラークも若干声のトーンが下がる。


「それよりも、だ!」

一つ手を叩き気分を切り替えてラークが明るく二人に語る。

「このメンバーはすごい、とんでもないメンバーが乗船していたもんだ。ともかく、一刻も早くサラトガ隊と合流して対応を決めよう。しっかり話し合った方がいいしな。」


そういったラークはデスクの前に送られてきた名簿を拡げた、そこに記載されていた名前は驚きの物だった。


曰く、『メルセリア帝国第二皇子:オーガスト=メルセリア:15歳』『帝国第一皇女:アルバータ=メルセリア:14歳』『同じく第三皇女:ルシンダ=メルセリア:12歳』・・・全て皇位継承権上位のメンバーであった。

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