第29話:Speed Battle.

皇族と称する不明艦達に支援部隊との合流を指示して後送したラーク達。

通り抜ける際に艦の解析を行ったが、不明な点は無く攻撃によって破損したのは間違いなく、追われているのも偽りではなさそうだった。

「さて、ここまで予想通りとは。驚いた。」

ラークはそう呟くと艦橋のモニターに視線を向けた。

不明艦の後方から迫っていた艦隊は、ラーク達の艦を視認したためか速度を落として慎重に迫ってきていた。その為主砲の射程距離に双方が入るまでの時間が延び、相対的にサラトガ隊の到着が早まる結果となった。恐らく交戦開始後20分で到着ぐらいには縮まった見込みだ。

「通信兵!敵への警告は?」

「何度もやっていますが『貴官らの後方に下がった艦艇を引き渡さねば攻撃する』としか返ってきません!」

「よろしい、ならば戦争だ!キャメル、サラトガ隊と知事からの連絡は?」

「あぁ、サラトガ隊は後3~40分程度で後方海域に到着、知事は数だけでもという事で近くにいる警備隊を中心にこちらに向かわせているらしい。サラトガ隊の元に集結させるとさ。」

「良し、だいたい想定通りで充分だ!何とかなりそうだな。アヤメ、悪いが揚陸艦で潜水艦を率いて右翼方面から敵左翼に回り込んでくれ。牽制を頼む。魚雷は魔法弾の四番だ。」

「四番魚雷・・・とことん全面戦闘を避けたいのね。承知!じゃね♪」


軽快な足取りで艦橋を出て行ったアヤメは高速ボートで揚陸艦に戻っていった。

程なく、揚陸艦と潜水艦がラークの本隊を離れ敵左翼に向けて移動を始めた。

ラークは駆逐艦二隻と偵察艦の艦長を呼び出した。モニターに3名の艦長が映し出される。艦長たちの敬礼とラークの答礼の後、指示が飛んだ。

「良し、本隊は速度を落とせ。駆逐艦二隻は本艦の左右に横列に展開、偵察艦も最左翼の配置に付けて全艦砲撃準備を!射程距離に入る直前で敵前方海域に砲撃、砲弾は魔法弾の実体弾五番を装填!急げ!」

『はっ!』

ラークが命令した五番砲弾の意図を一瞬で理解した艦長達が敬礼し、モニターから退出した。直後、キノトグリス後方で展開していた駆逐艦と偵察艦は横一文字の横列に陣形を変えた。


メルセリアの叛乱軍であろう艦隊は、旗艦と思しき戦艦一隻を先頭に魚鱗の陣形に後方左右に四隻の巡洋艦を配置していた。巡洋艦と駆逐艦で構成されたラーク達の艦隊は防御力や攻撃力の総合力で劣る、そのため旗艦が先頭に立っても問題ないと考えた自信に満ちた陣形と言えるだろう。

双方の射程距離突入まで後五分の距離まで入った直後、ラークの鋭い声とともに指揮が飛ぶ。


「アヤメ、予定通り魚雷発射!標的は分かってるな?」モニター越しのアヤメが白い歯を見せながらサムズアップして見せた。

『もちろん、【真ん中】でしょ?』

「よし、任せた」『おっけー♪』

「キャメル、砲撃できるな?」

「もちろん、各艦いつでも撃てるぞ。」

「わかった」一呼吸おいてラークの命令が飛ぶ。


『っっってぇー!!!』


その瞬間、隊列並んだ各艦から一斉に主砲が火を噴いた。

アヤメの指揮する隊も、揚陸艦と潜水艦の両方から敵艦に向けて魚雷を発射。

ただし、いずれの攻撃も敵艦隊に直撃することは無かった。

横列に展開した艦艇からの砲撃は敵艦隊にのはるか手前で着弾し、アヤメの放った魚雷は敵艦の船腹に刺さるどころか艦を避けるように通過しようとした。

次の瞬間、アヤメたちの魚雷が敵艦隊の丁度中心に位置する海域で轟音と共に炸裂した。ラークとキャメル達の砲撃も、敵艦手前の海中で軽い音と共に破裂した。。

そして、砲弾からは敵味方の艦隊の間に薄く光る玉を無数に放出し、魚雷はその炸裂した場所を中心として敵全艦艇の海域に一瞬で光り輝く何かを作り出した。


光り輝く何かをめきめきと押しつぶしながら敵艦の動きが一瞬で止まった。それを確認したラークは艦隊を後退させ、アヤメたちを呼び戻し陣形の再編に取り掛かった。

敵艦隊の海域を覆った何か・・・それは分厚い氷の層である。ラークが指示した魚雷は氷魔法を充填した魔法弾。通常であれば敵艦に直撃させ艦内に氷魔法の嵐を巻き起こし全滅させる凶悪な魚雷だが、今回戦闘をなるべく避けたかったラークは敵艦隊の真ん中で海を凍らせるために炸裂させたのだ。当然、その意図を一瞬でくみ取り細かく指示しなくても計画を実行したアヤメの感受性もレベルが高いものではあるが。


また、巡洋艦や駆逐艦から放たれた砲弾は火魔法と風魔法を封じ込めた機雷敷設砲弾であった。

風魔法により空気中の酸素のみを圧縮した機雷の球を作りその中に火属性の爆裂魔法を封じ込めた。これにより、敵艦が触れた際の爆発力を高めた魔法機雷を多数砲弾内に充填し海中に散布したのだ。これも、ラーク達が選抜した優秀な艦長達が指揮官が命令した意図を即座にくみ取り正確に実行した結果であった。

これにより、最高の形で叛乱軍の足止めが出来たのである。


「ひとまず全艦集結、陣形を立て直して一旦下がる。後方に下がったメルセリアの艦は?」横に控えるキャメルに状況の確認を求めた。

「もうすぐ補給艦達と合流しそうだと報告があった。それとサラトガ隊が間もなく予定海域に到着するそうだ。知事の命令があった警備隊も順次サラトガ隊と合流するみたいだ。もう大丈夫だろう。どうする?ラーク。敵さんの様子を見て後退と言う所だと思うが?」

「そうだな、見たところ敵さんの艦艇に損傷はなさそうだ。火魔法の使い手や弾薬があれば氷も溶かせるだろうが多少時間は稼げる。アヤメたちが戻り次第一旦撤収かな?」

「それでいいんじゃないか?お、アヤメたちが戻ってきて陣形も元に戻った。微速後退で敵正面を向いたまま六時方向に転進・・・でいいな?ラーク。」

「あぁ、そうだな。」


その後安全圏まで後退したラーク達は最大船側で転進。時間にして交戦時間僅か30分弱。奇跡的に双方に死者の出ない戦闘であった。

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