第28話:Encounter With Nobility.
ラークの声と共に駆け寄ってきた索敵担当の士官が敬礼と共に報告する。
「ルシア=バイオレット少尉、状況を報告いたします!所属不明艦が数隻、12時の方向よりまっすぐ本艦の方向に向かってくる模様!当艦以下全艦は既に臨戦態勢を取っており、いつでも攻撃可能です!」
「よし、少尉!そのまま警戒を継続。主砲の有効射程内に入るまでこちらから攻撃はしない事。既に向こうからも認識はされているものと考えて良いな?」
「はっ!恐らくは既に向こうも気づいているものと思われます。」
「では後どのくらいの時間で双方の射程に入りそうか?」
「30分後と思われます。」
「十分だ、このまま行軍し接近する!砲撃手は
『はっ!』
砲撃手が不明艦に狙いを定めるべくコンソールパネルを操作しだした。
その時、艦橋にキャメルとアヤメが飛び込んできた。
「すまん、ラーク!遅くなった!」
「ごめん!」
「・・・ふぅ・・・」ため息をつくとラークは二人に向き直る。
「流石に困る。」
『ごめん』
しょんぼりとはもる二人。
「まぁいい。今はそれどころじゃねぇ。ともかく、二人とも戦闘態勢を取ってくれ。アヤメ、ワイバーンは?」
「もちろん撤収させたよ。ワイバーンも無事。」
「了解、ワイバーンからは前方の不明艦以外に報告はあったか?」
「ないわ、ただ前方の敵艦は1隻。戦力としては勝ってるっぽい。」
「わかった。偵察艦と潜水艦は撤収!艦隊編成に戻らせろ。通信士!不明艦との通信回路をオープンできるか?」
「やってみます」
短く答えた通信士が端末を弄り、程なく不明艦との通信回線を探り当てた。
「開きますか?直ぐに話せますが。」
「やってくれ。」その返事と共に通信回線が開かれた。
『停戦せよ、然らざれば攻撃す。』
ラークがマイクを握りしめ
返事は無い。
徐々に縮まる双方の距離、ラークは攻撃準備を指示し再度不明艦に停戦と交信を呼びかけた。
やはり返答は無く、更に距離が縮み、いよいよあと数分で射程距離に入る段階になってラーク達は異変に気付く。
「総員、警戒体制のまま減速。ゆっくり近づくように。」
良く見れば攻撃を受けたのかところどころ破損した船体、うっすら煙を上げる甲板。
遠目でも判る破損した艦橋。相当のダメージを受けていることは一目でわかった。
「アヤメ、不明艦への突入準備。」
「だよね、了解。もう準備は万端よ。合図頂戴。」
「助かる、キャメルは済まないが病院船と作業艦に受け入れ準備をさせておいてくれ。必要になるかもしれん」
「わかった。」
短く答えたキャメルは、通信用のマイクで後方に待機している病院船と作業艦の艦長を呼び出し指示を出す。
10分が経過し、その間もラークは不明艦から目を離さず観察していた。
その時、索敵班から追加の報告が飛び込んできた。
「砲撃です!射程外ですが不明艦の後方から砲撃が来ます!」
「不明艦後方の戦力は?」
「5隻!ただし、戦艦と巡航艦が主力です。レーダーに潜水艦の反応なし!総合力では向こうの方がやや上かと!射程距離突入まで約30分後の見込み。不明艦を攻撃している模様です!」
「わかった、キャメル!急いでサラトガ中佐に近くまで進軍してくるように要請!知事にも援軍要請を!」
「心得た!」
キャメルがダビドゥスにある知事公邸と公海上で待機しているサラトガ艦隊への通信回線を開き支援を要請。ラーク達の後方まで出てくるように依頼をかけた。サラトガ達が了解し、約1時間程度で到着できる旨告げられた。
「1時間・・・敵さんとの遭遇が30分だから差し引き30分か、少し長いな。仕方ないが・・・」
ラークが呟くとアヤメが準備体操をしながらラークに声をかけた。
「心配しなくても大丈夫だよー、いざとなったら敵艦殲滅してくるから」
笑いながらアヤメが肩甲骨を伸ばす。
その時、通信不能であった不明艦との通信回路が開かれた。
「我に交戦の意思なし!メーデーメーデー!追われている、助けてくれ!」
漸く通信回線がつながったかと思うと悲痛な叫びが飛び込んできた。
「貴官らの所属を申告せよ!話はそれからだ!」
罠の可能性を考慮し、ラークは当然の質問を行った。
その返答は驚くべきものであった。
「私はメルセリア帝国軍准将アンガス=ウォーロックだ。宮廷護衛部隊の分隊長を務めている。今回のクーデターについては貴官らも知っているだろう。帝都は陥落し、皇族の大半は拘禁されたがまだ我々が残っている。皇族数名をお連れしている、亡命の可否についての相談も含めて保護を要請したい!」
暫しの静寂の後、ラークが声を出す。
「承知した、しかしモニターの画像に貴官らの姿を映して貰わんと信用しづらいのだが・・・」
「申し訳ない、攻撃を受けている間に通信設備の一部に破損が生じている。攻撃を受けて画像の投影が出来ない、申し訳ないがこれより軍旗を掲げさせてもらう、それを確認してほしい。」
「承知した。」
程なく不明艦から軍機が掲げられる。索敵班がその旗を識別した。
「赤地に金の房飾り、八芒星の中に盾と交差剣です。メルセリア皇族の軍旗に間違い御座いません!」
「わかった。仕方あるまい、貴官らの申し出に基づき我が部隊が保護を行う。貴官らはそのまま直進し、我らの間を抜けて後方の支援部隊まで行ってくれ。ただし、砲身を垂直に上げて交戦の意思がない事を表明してほしい。」
「承知した!」
約15分後、不明艦はラークの要請通り砲身を上げ艦の間を通り抜け後方に下がった。
その後ろから、恐らくはクーデター部隊であろうメルセリアの艦艇が牙をむきながら近づいていた。射程距離まで残り約15分。間もなく双方が干戈を交える距離まで近づく。
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