第二項:戦(いくさ)と邂逅

第27話:Encounter Unknown.

9月7日午前6時、まだ薄暗い早朝にラーク達の率いる艦隊がメルセリア方面に向けて出港した。州の防衛隊もケント知事の号令一下サラトガ中佐が指揮を執り、ラーク達の約二時間後に領海内警備の名目でラーク達の艦隊と連絡を取りやすい中継地点となる海域に向けて進軍を開始。

約三時間後、ラーク達はグラナドス領都ディペランとダビドゥスの中間地点に当たる公海上に到着した。


一旦全艦の行動を停止させ、随伴の情報収集艦と潜水艦の二艦に周辺海域の哨戒を命じる。そして、揚陸艦からは海兵隊が搭乗するワイバーンを二匹空に放ち、上空からの偵察も行わせた。

一通りの周辺探索の指示が終わると、旗艦キノトグリスの作戦会議室Briefing Roomにラーク達艦隊幹部が集合し、打ち合わせに入った。


「ひとまず、予定海域には到着した。サラトガ中佐の指揮する艦隊は公海上で待機し、予備兵力となってもらう。」

ラークが説明し、キャメルが補足を入れた。

「サラトガ中佐の艦隊は実戦経験に乏しい。故に、戦闘に直接参加するというより後方からその姿で艦隊そのものを見せつける役割を担ってもらう。戦力としては期待しないように。」

その台詞にアヤメが苦笑しながら付け加えた。

「結構ひどいこと言ってるねー・・・ひとまず私たちの部隊からワイバーンも飛ばしてるし、哨戒部隊も索敵させているから何かあればすぐにわかるはずよ。それより、本当に皇族たちがこっちに脱出してきてくれれば、と言う話だけど。」

「まぁ、一日二日でどうにかなるとも思えん。もしかすると既に捕縛されて処刑されている可能性もあるが、今の所そういった情報は無いそうだ。キャメル、哨戒部隊の指揮はお前に任せたいけどいいか?」

「OK!」

指で輪っかを作りながら明るく返事をする陸軍中佐。

「頼んだ、それとワイバーン隊も今回は2匹しか連れてきていなかったな?大事な空の戦力だ。戦闘は極力避けて索敵に徹してくれ。任せたぞ。」

「りょ~かい、ワイバーンは私たち海兵隊にとっても貴重な戦力だしね。基本的に戦闘は避けさせるように厳命してるよ」

アヤメがにこやかに応える。

「よし、それでは散会。艦隊はこのままバラディス領方面に北上してくれ。」


その後ラーク達は簡単な朝食を摂り、特段問題もなく航海を続けていた。

「各員はこのまま警戒態勢を。敵味方関わらず不審な船影が見えたら即応態勢を取る様に。一旦17時まで北上を続け、そこで今夜は停泊させる。潜水艦と偵察艦にも伝達してはぐれないようにしておいてくれ。」通信士に指示を出し、敬礼と共に通信士が去るのを確認するとラークは「少し休む」と指揮卓のリクライニングを倒して目を閉じた。

午前十時、若干の疲労を感じさせるその姿にアヤメとキャメルも無言で退去し、会議室にはラーク一人が残された。


数分後、アヤメとキャメルが連れ立って旗艦に設置されたカフェテリアで話し込んでいた。

「ラークも大変だねー・・・無責任かもしれないけどほっとくと頑張りすぎるところあるからねぇ・・・」

アヤメがカフェオレを飲みながら友の健康を気遣っている。

「確かになぁ、あいつは昔から根っこは真面目だからな。指揮統率の能力面と言う意味では俺達より一歩以上抜きんでているんだよなぁ。」

キャメルはアイスティーを飲みながらアヤメの言葉に同調している。

「だから昔からリーダー的な所を任されるけど、階級が上がって段々きつくなってきてるんじゃないかなぁ・・・」

「恐らくそういった面もあるだろうね。特に俺達は司令官にはあまり向かないタイプだから、三人で何かすると必然的にラークへの負担が大きくなってしまうからな・・・」

「私も。中隊長とか大隊長とかなら何とか指揮できそうだけど、艦隊司令官みたいな大きな役職はしんどいかな・・・海兵隊だけでも結構大変なのよ。」

「俺達って、結構ラークが隊長で俺達が副隊長みたいな立ち位置が多かったもんな。俺は参謀型、アヤメは切り込み隊長?みたいな役割かな。」

「否定はしないけど、私ってどんな風に見られてるのよ」

苦笑しながらアヤメがキャメルに問いただす。

「そのまんまの意味だ」

にやりと笑うキャメル。

「殴るよ」

にこやかな笑顔でキャメルの目の前でこぶしを握って見せるアヤメ。手にはめたレザー製の指出しグローブがアヤメの握力でミチミチときしむ音を立てている。

「すまんすまん、冗談だ。」

慌てて詫びを入れるキャメル。

「まぁ、ラークも無理しないでほしいけどねー・・・キャメル、あんたも無理しないようにね。」

カフェオレを飲み干してアヤメがキャメルを気遣う。

「おう・・・だいじょうぶだ・・・」

アイスティーの氷をガリガリ齧りながらキャメルが応える。


「さ、じゃぁ私達も休憩しようか。」

「了解、また後でな。」


そしてその後、大きな戦闘もなく予定海域へと到着するかと思われた午後4時頃、艦内にけたたましいアラームが鳴り響いた。長めの午睡昼寝から飛び起きたラークは上着をひっ掴み環境へと走り出した。

その間、アラームと共に警戒班の館内放送が全艦に響く。

『12時の方向、複数の艦影見ゆ!我が隊の方にまっすぐ向かってくる模様!』

「予想外に早いな・・・」若干の油断がラークにはあった。まさかこんなに早くアンノウンと遭遇するとは予想していなかったのだ。


「よし!現状を報告せよ!」艦橋に飛び込んだラークの第一声が響いた。

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