第26話:Operation Begins!

表示された周辺海域地図を見ながら三人が話し込む。

ラークが打ち合わせの口火を切った。

「ここダビドゥスからディペランまでは航海の支障になる様な海域は存在しない。もし戦闘となれば正面決戦になるだろう。正直な所、そうなってしまうと物量が物を言うし双方が出せる戦力次第だろう。」

アヤメがそれに同意しながらディスプレイを指さす。

「それだけじゃないよね。正直バラディス侯爵領まではあまり遮るものが無いわ。無人島は点在してるけど、戦略や戦術での活用は難しいわね。侯爵領の北側付近の海域まで行くと暗礁海域や大小の島々があるけど、今回ここら辺は戦闘にはならないわね。むしろ、皇族がメルセリアを脱出できた時にこの海域を迂回して南下してくる可能性が高いと思うわ。」

キャメルが唸る。


「確かに、脱出したとしたら迂回してくる可能性が高いが、その場合バラディス領が西にせり出ているから、方角的にはダビドゥスの真北に出てくる可能性が高い。この場合、こちらからも見つけやすくはなるがメルセリア側からも丸見えになるエリアだという事は覚悟が必要だな。」

「ああ、皇族の脱出が前提で話しているが、実際このダビドゥスの周辺海域は岩礁などに囲まれているわけでもないから攻めやすく守りにくいというのは間違いない。万が一にも全面衝突になったら危ないな。」ラークがダビドゥスの周辺地図を指でなぞりながら指摘する。


「となると、基本的にはメルセリアを刺激しないように哨戒活動をしながら脱出者がいないかの捜索だな。後は州の防衛部隊がどの程度役に立つかと言ったところか。正直あまり期待は出来んな。」キャメルの指摘をアヤメが訂正する。

「さっきの話を聞く限り『全く』期待できないの間違いじゃないかなぁと思う。実戦経験が少なすぎるのは問題だよ・・・それでも戦力として組み込むしかないんだよねぇ・・・」


実際の所、ナットシャーマンが保有する戦力はせいぜいが分艦隊レベル。ナットシャーマン自体は強大な武力を保持せず最低限の防衛戦力しか有していなかった。

がエルフィンの州に組み込まれた際、遠方に強大な武力を置くのは危険という事で元々持っていた武力は解体された。その後、大きな戦乱も無い為補強されずにずるずると何世代も来てしまった・・・と言うのが真相である。


三人が思案しているその時、司令部のドアをノックする音が聞こえた。

「誰か?」

キャメルが誰何する。

「ナットシャーマン防衛隊隊長のイブン・サラトガ中佐だ。知事の命により参上した。」

「・・・入って下さい。」

ラークが入室を促す。

入って来たのは年の頃は30代前半、身長は180センチ前後のがっしりとした体躯の軍人である。

ラーク達3人は相手の方が年上という事もあり、先に敬礼する。サラトガは答礼を返すと早速会議に加わってきた。

「恐らく知事から防衛隊の実情については聞いているだろうし、聞いた通りでほぼ間違いない。それに地図を検証していたのだろうがこの海域が攻めやすく守りにくいのは見ての通りだ。貴官らも作戦立案は悩むのではないか?」

サラトガが低く笑い、地図を指さしさらに言葉を続ける。


「防衛隊はダビドゥスの南30㎞程にある軍港に艦隊を駐留させている。規模としては現在貴官らが引き連れている部隊の約3倍だ。但し、戦艦は無い。巡洋艦と駆逐艦、潜水艦と後は国内の警備に基本的に使われる巡視艇がいる。但し、巡視艇の装備は最低限の武装しかない。30隻の部隊だが、半数は巡視艇だ。残りの半数は巡洋艦1、駆逐艦3、潜水艦1の5隻編成が3部隊だ。巡視艇については多少の武装強化は可能だが、限界がある。武力としては30隻で後は補給艦、工作艦、病院船等で構成された後方部隊が10隻ほどいるが戦闘能力は皆無だ。主要任務は貴官らも聞いている通り国内の巡視と海賊の討伐、民間船トラブルの解決などだ。海賊に至っては殆どが2~3隻程度の規模で、5隻を超える海賊は出たことが無いな。他に質問は?スピークス中佐。」

「それだけの艦艇数があれば十分ですな、貴官にも協力してもらいたい。差し当たって巡視艇は州内の警備に専念して頂いて、それ以外の艦艇はメルセリア側の領海を巡回しつつ訓練を行ってもらいたい。基本的には領海内だけでの活動で良いと考えます。」


「了解した。経験に乏しい我々としては当面はその方がありがたい。すまないがよろしく頼む。」サラトガが右手を差し出す。その手を握り返しながらラークが応えた。

「こちらこそよろしく頼みます。当面の間警戒は怠らず、不審船や所属不明船がいれば連絡をください。メルセリアの皇族が脱出しているかもしれないという話は貴官も聞いているだろうが、我が国に逃げてくる可能性もあるのでしっかり目を光らせてほしい。」

「わかった」それだけ短く答えるとサラトガは握手の手を離すと敬礼をして退室していった。

「案外物分かりのよさそうな人で良かった。」キャメルが胸をなでおろすとラークも同意して頷いた。

「そうだな、少なくとも対立することは無さそうでよかった。階級が同じだとややこしい事も多いからな・・・アヤメはどう思った?」

「特に変な感じはしなかったよ。問題ないんじゃない?」

「そうか、それならいいかな。まぁここで会議ばかりしててもどうしようもないので、俺たちは明後日の朝に出撃しよう。キャメル、全部隊に伝達してくれ。それと補給の手配も。アヤメは知事に出撃を報告しておいてくれ。サラトガ中佐と打ち合わせた内容も報告して指揮を執る様に、と。頼むぞ。」

「あぁ」「任せて~」キャメルとアヤメが手を振りながら会議室を出ていくと、ラークは副官を呼び出し、出撃準備の指示を出した。


いよいよ戦乱の渦中に飛び込む、作戦開始である。

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