第22話:異変の始まり

「さて、どこまで話していい物か・・・」

流石のカールトンも人事が発令される前に全てを話す事には抵抗を感じていた。だが、信頼を寄せる三人の為に全く話さないわけにはいかなかった。

彼らも恩師の次の言葉を待って沈黙している。

数瞬の沈黙の後、恩師は静かに話し始めた。


「まず、現在メルセリアで誰が反乱を起こすか不透明な現状だ、向こうの動きがわかるまでは貴官らには通常勤務に当たってもらう。だが、メルセリア駐在の大使館員や諜報員からの情報で反乱の発生が確実と思われる、もしくは発生した場合にはどうするかという事だが・・・」

カールトンが彼らにそれぞれ目線を送る。


「メルセリアとの武力衝突を見越しての案だが、一つはスピークス中佐に隊長を、メビウス中佐とランバージャック中佐に副隊長を任じて独立部隊を編成し、陽動部隊としてメルセリア領内で行動してもらう案、もう一つが貴官らだけでメルセリアに潜入し諜報活動や工作活動を行ってもらう案だ。」

三人が軽く息をのんで恩師に質問する。

「随分と無謀と言うか、強硬な案ですな。もし武力衝突となった場合、陽動部隊の我々が生還する可能性は高くないですし、潜入活動も然り。軍人ですので命令には従いますが、かなり厳しい案ですな。」

ラークが臆することなく感想を述べると、カールトンも溜息をついた。


「正直、私は反対だ。ただ、上層部としてもあくまで案と言う話だ。メルセリアの内部情報に不正確な部分が多すぎて、これと言う解決策が見いだせないのが現状。それゆえにこんな生還率の低い馬鹿な案も危機感無く出るのだろうな。地方叛乱レベルではなく、国家同士の戦争にもなりかねん事態は上層部も経験豊富では無いからな・・・」

「うーん、上層部もなんとなく案を出してみた・・・と言う感じがしないでもないですねぇ。」

キャメルもやれやれと言う感じで唸った。

「そう?あたしは面白いと思うけどな、一番遊べそうだし。」

アヤメは相変わらずの狂戦士バーサーカーモードである。


「まぁ、ここで議論していてもどうにもならんのが現状だ。少なくとももう少し事態が進展・・・反乱がおきるのか大山鳴動して鼠一匹なのかはわからんが。ともかく、今日の招集は人事の事前打ち合わせという事になっているが貴官らにはある程度我が艦隊が置かれた事情を知っておいてほしかった。当然だが口外しないように。本日はこれまでだ。異動の実施までに引継ぎを済ませて来月からの勤務開始に備えるように。ご苦労だった。」カールトンが片手をあげて三人に退出するよう促した。


『はっ!』敬礼と共に彼らは踵を返し退出する。


その後人事異動の8月1日迄、三人は引継ぎ業務に忙殺され、その後異動が実施されるも当初は特段異変もなく、三人はそれぞれの新しい業務をこなすべく前任者からの引継ぎに忙殺されていた。

統合作戦本部の第一艦隊司令部と陸軍第二師団司令部、そして第一海兵隊は相互のコミュニケーションが取りやすいようにと敷地内で新設され隣接することになった。第二師団と第一海兵隊が第一艦隊司令部の両隣りに移動して来た形だが、新設の司令部は第一艦隊の物よりきれいに作られていたことで、陸軍と海兵隊は大喜びであった。


第一艦隊としては少し複雑であったようだが、人格者のカールトンが不平分子を諫め大きな問題となることは無かった。

その後、二週間程は特別何もなく、カールトンも三人も編成や訓練に忙しく精を出していたが、異動から三週間近く経過した8月20日の午前10時半、三軍団の合同会議の最中にその知らせは飛び込んできた。

その日、朝から陸海軍と海兵隊の三軍合同によるMTGミーティングが行われ、対メルセリアの防衛指針について話し合われていた。

海軍第一艦隊司令官ウィンフィールド=カールトン海軍大将、陸軍第二師団長ライマー=アルトマン陸軍大将、海兵隊第一軍団長サミュエル=バークレイ海兵隊大将の3人が主催しての会議であった。

同格の大将が三人もいると、出世欲やライバル意識がぶつかり合い険悪になると思われるのが常だが、会議は穏やか和やかに進んでいた。

実は彼らは同期ではないが長年共同で任務に就くことも多く、三人の中で最年長のカールトンが兄貴的立場でまとめ役となり、これまでずっと仲良く活躍して来た。

軍上層部もこの三人であれば仲違いすることなくそれぞれの持ち味を生かしてくれるだろうという事で今回の編成を行ったともいわれている。


事実、彼らは今回の人事で三軍の司令部が隣接したことにより若手時代の様に付き合いを再開していた。既に、もう10日以上は三人で飲み歩いている。元々豪快な飲みっぷりで知られる彼らに、町中の居酒屋はいつ自分の店に三人のお偉方がくるか戦々恐々としながら店の準備をしていたらしい。


会議が始まって30分ほど経過し、防衛方針や有事の軍事活動や訓練内容方針等についての議題が進む中、統合作戦本部の情報部情報作戦課の士官がノックもそこそこに驚きで赤くした顔を供にして会議室に飛び込んできた泡て

「失礼します!統合作戦本部情報部情報作戦課のタナー少尉であります!先ほど、メルセリアで異変が発生しました!」


3人の司令官が顔を見合わせ、会議室に飛び込んできた少尉に声をかけた。

「それで、どの様な異変だ。既に異変が起こるであろうことは分かっていたはずだが何をそこまで驚いている?」

バークレイが訝し気に問い、他の2人も同意した。

「確かに、最悪の場合クーデターも起きるであろうことは事前に把握しているし、その候補者も把握している。それほど慌てる理由も見当たらんと思うが・・・」

アルトマンもやや困惑した声を投げかけた。

カールトンは無言で説明を続けるよう少尉に促した。


落ち着きを取り戻した少尉が呼吸を整え報告した。


「メルセリアでクーデター発生!パガン男爵とバラディス侯爵領の領主代行コルデーロ子爵が共謀しグラナドス辺境伯領に突如侵攻!グラナドス辺境伯は防衛も間に合わず敗走、生死不明!」


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