第23話:部隊編成命令

驚きが静寂へと変化しその場を支配する中、タナー少尉が言葉をつづけた。

「グラナドス領都ディペランはパガン男爵領が併合、バラディス侯爵はコルデーロ子爵に暗殺された模様!帝都でもコルデーロ子爵の息がかかった者が蜂起し、帝都に留学しているバラディス侯爵の子息二人は行方不明、子爵の手のものに捕まった可能性が大!」

「まて、帝都でもクーデターが起きたというのか?そんな情報は一切入っていなかったぞ?!」

カールトンがようやく驚きの問いを投げかけた。

「それで、帝都の状況は?メルセリアの一族はどうなっている?」

アルトマンが至極当然の質問を投げかけ、タナー少尉がそれに答えた。


「現皇帝のウォルターは自ら軍を率いて抵抗するも敗北しその場で殺されたとの事です。一族も大半が拘禁され投獄されております。ただ、一部の皇族は国外脱出をしたとの話ですが行方不明との報告があります。また、帝都滞在中であった皇弟のテューダー大公が北部にある自領への脱出に成功し、反撃の準備を整えているとの事。コルデーロとパガンにとっては大きな痛手となると思われます!」


「それで、沿岸部にいる領主たちの軍についてはどうなっている?こちらに攻めて来る気配はあるか?」

鋭く問いかけるカールトンに対し、ひるむことなくタナーが応えた。

「今の所メルセリア国軍や領主の軍勢がこちらに攻めて来る気配はありません。帝国軍と反乱軍が各地争っており、行方不明である皇族の捜索に注力しているものと!」

「わかった、ご苦労だった。他に報告が無く時間に余裕があればこのまま会議に参加してくれ。決定事項を課に持ち帰って吟味してほしい。」

バークレイが穏やかに声をかけ、タナーは敬礼と共に会議の末席に着席した。


「さて、想定外の事態で我々も方針転換が必要になったわけだが、まずは今後どうするか意見を聞きたい。サム、どう思う?」

カールトンがバークレイに愛称で問いかけた。

「うーん、いきなり振られてもなぁ・・・突然すぎて頭が整理できとらんよ、ウィニー。ただ、テューダー大公が帝都訪問中を狙って皇族の一網打尽を図ったのだろうが、失敗したな。これからどうなるか・・・」

愛称で呼ばれ微妙な表情を浮かべながらもバークレイが見解を述べる。

「ライはどうだ?」バークレイがアルトマンに意見を求めたが、彼は眉間にしわを寄せたまま暫し無言であった。ライはライマーの愛称である。


「・・・そうだな、少なくとも我々がやるべきことは国外脱出した皇族の捜索と保護だろうな。皇族側と反乱軍側のどちらも確保しておきたい手駒だ。我々としては彼らより先に保護できれば戦略的に重要な手駒になるだろうな。」

アルトマンの意見にカールトンもバークレイもうなずく。

「意見は無いか?自由に議論してほしい。状況が状況だ、忌憚のない意見を述べてほしい。」

バークレイが促し、ラークが挙手をした。

「スピークス中佐、何かね?」

カールトンがラークを指名し発言を促した。


「閣下、脱出した一部の皇族に関してですが、テューダー大公の元に逃げたのでなければ恐らくバラディス侯爵領の北側を迂回して海に逃げたのではないでしょうか? 侯爵領の北側は一部が帝国直轄領となってはおりますが森林や鉱山地帯が多く、魔獣や野の獣等の危険も多いですが沿岸部にある港まで身を隠しながら逃走するには最適なエリアです。もし我が国側に脱出してくるなら、このルートを使う可能性が一番高いかと思われます。」

テーブルに表示された地図に予想される脱出ルートが表示された。


「確かに可能性が高いな。となると早々に捜索隊を編成した方がよいか。」パウエルが地図を見ながら捜索隊の編成を提案し、アルトマンがそれに同意した。

「そうだな、早急に派遣した方がよかろう。」

「それではどのような編成にするか、だが・・・」

カールトンが会議の出席メンバーを見回す。

「スピークス中佐、メビウス中佐、ランバージャック中佐、貴官らに編成した部隊を預けて捜索に当たってほしいのだが構わんかね?」

半ば予想はしていたが、まさかここまで直接的に恩師から頼まれると考えていなかったラーク達三人は若干の驚きを以て敬礼した。

「ご命令とあれば謹んで承ります」ラークが生真面目に応える。

「脱出した皇族が可憐な美少女であることを祈りながら承ります」キャメルが真面目にふざける。

「亡国のイケメンであれば喜んで保護致します。十代半ばなら更に喜んで・・・」アヤメがキャメルに乗っかる形でふざけた。


「貴官ら・・・まぁ、いつもの事だ。それより、受けてくれるなら早速部隊編成に取り掛かってくれ。ただ、メルセリア側をあまり刺激しない編成で頼むぞ。目的としてはあくまで脱出した皇族の捜索と保護だ。クーデター部隊との戦闘は極力避けてほしいし、全面衝突は絶対に避けてくれ。頼むぞ、選抜は貴官らに一任する。好きに編成してくれ。」

『了解!』

カールトンの指示に再度敬礼する三人。


「よし、それでは本日の会議はこれまでとする。タナー少尉は戻って報告。後はこちらに一任するようにと付け加えてな。パウエルとアルトマンの二人は何かあるか?」

「いや」「ないな」二人がそれぞれ返事をし、会議は解散となった。


会議室から出てそれぞれの執務室に向かう3人の後ろからカールトンが声をかけた。

「まさかこんな結果になるとは思わなかった。私たちも予想できなかった事だが、こういう事態になった以上貴官らには動いてもらう。頼むぞ、編成案が出来たら私たち三人に送ってくれ。良いな。」

その指示に若い三人は再度敬礼し、キャメルがこう応えた。

「まぁ、余り無茶をしない程度にやりますよ。任せておいてください。」


踵を返し、自室に向かう三人の後姿をカールトンが見送る。

「彼らにはもっと活躍してもらわねば・・・」

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