第20話:騒乱の火種

カールトンがPCを操作し、モニター画面を見ながら説明する。

「知っての通り、メルセリアと我が国の国境は双方の領海の間に公海がある。だから直接の領海侵犯は意図せぬ限り起こらないのはわかるな?」

カールトンの言葉に三人がうなずく。

「これはメルセリアの当方大陸だけでなく、西方大陸も同じだ。むしろ、向こうは我が国の領土であるヘッジス半島が大陸にあるので直接ユールハイドと国境を接してはいるがね。」


「そして、貴官らも知っての通りメルセリア帝国はその名の通り帝国主義国家で、メルセリアの一族が代々統治してる。そして、各地に領主を置いて地方統治を任せている封建国家でもある。」

「そうです、その地方領主の誰かがクーデターを起こそうと?」ラークがカールトンの言葉に続けた。

「そうだ、あくまで今の所は可能性の話だが、先日公海上に現れたメルセリアらしき軍艦がこの話の主である可能性が高くなってきた。」

「で、どこの誰なんです?」アヤメが問う。

「すぐにメルセリア領海内に逃げられて見失ったのと、候補が複数あってまだ特定し切れておらん。ただ、メルセリア西部から南部にかけて領地があり、尚且つ沿岸地域に所属し我が国の制式艦体レベルの戦力を所持できる領主は限られている。メルセリアの内陸領主は海洋戦力を持っていないし、沿岸地域に飛び地を持っている領主もいないからな。」

カールトンが説明するとキャメルが腕組みしている左手を顎に当てて低くつぶやく。


「しかし、メルセリアでの武力蜂起はそう珍しい事でもないでしょう。メルセリアの統治能力Governabilityがもうここ何百年も衰えていてここ数十年は慢性的に地方領主や部族の武力叛乱が起きているのは世界的に周知の事実なんですし。」

「確かに貴官の言うとおりではある、だが今回はメルセリアの国中枢部でのクーデターと連携したものになる可能性があるうえに、候補とされている地方領主の顔ぶれが余りよろしく無い奴らばかりなのだ・・・」

軽く天を仰ぎながらカールトンが溜息を吐く。


モニターに映し出された叛乱候補者たちの画像と名前を見ながらラークが唸った。

「確かに・・・このメンツは」

「危険度高いねー、キャメルはどう思う?」

アヤメがキャメルに話を振る。

「そうだな・・・」

キャメルが顎に手を当てたまま解説してみせる。


「まず、メルセリア帝国領最南端、大陸の南側をフリージア国境まで領有しているカサカリ地方のパガン男爵領。ここは中央政府からも一番遠く目が届きにくい。それに我が国とは領海が一番離れているので俺達も調査がしづらく情報が入りにくい。更に地形的にも入り組んだ入り江や岩に囲まれた海域が多く、侵入しづらいから他国の調査が及びづらい。

また、男爵と言う下級貴族の地位も警戒されにくい上、領都リベックについては大陸東側のフリージア統一国から大陸の南回り航路で我がエルフィンとを結ぶ中継地点としても交易が盛んだ。誰も知らないところで男爵が金をため込んでいてもおかしくない。

元々、男爵自身も紳士のような見た目で守銭奴、野心家と言う噂だからな。何があってもおかしくない。」


「次に、パガン男爵領北端と領地を接しているグラナドス辺境伯領。

ここは公海を挟んでだが、我が国と一番領地が近い。領都ディペランについては、リベックと同じく交易都市となっている。リベックから来た船や大陸北側航路から来た船、西方大陸や我が国から来た船がここを経由して大陸北側航路か南側航路に進むターミナル港だからな。リベックより金が集まっていてもおかしくない。

領主のグラナドス自身は紳士的だし野心がある様にも見えないが、潜在的な敵国である俺達エルフィンへの対策は怠れないからな。軍事的な要衝としても艦隊の一つや二つ持っていてもおかしくないわな。

ただ、野心と言う面では良識派として知られているし一番可能性が低いと思う。まぁ、辺境伯が置かれているという事で武力は無論、政治面でも重要度が高いのは当然お察しだ。」


「そして、グラナドスの北側に領土を接しているバラディス侯爵領。ここが一番首都にも近く、反乱を起こすなら距離的にはここが一番帝都へ攻めやすいかなと言う気がするな、失敗すれば悲惨だが。

侯爵そのものは無害で平和主義だが、現在侯爵自身が病床に臥せっているせいで、親戚筋のコルデーロ子爵が領主代行をしているらしい。バラディスには二人の男子がいるが、いずれも兵役の名目で帝都へ留学しているらしい。兵役と言っても半分は学生として学問をしに行っているらしいがな。父親の病気を知って一旦帰国を願い出ているらしいが、許可がなかなか下りないらしい。

その間隙を縫ってコルデーロが私腹を肥やして野心を増幅させているらしい。元々貧乏貴族だったという事もあって、侯爵の財を私的に使っているという噂もある。当主の復帰とコルデーロの追放を求める声が日に日に強くなっているらしいな。コルデーロが何かしでかすか、内乱が起きるか・・・と言う可能性も捨てきれない。」


「ま、こんな感じじゃね?この三人なら誰が謀反を起こしてもおかしくなさそうだわな。」

キャメルが二人に向き直る。

その説明にラークとアヤメが目を丸くしていた。

「おまえ・・・こんなにきっちり説明できるのか・・・」

「私もあなたがここまで考えられるとは思わなかった・・・」

「おまえらな・・・」

憮然とした表情でカールトンに向き直ると、驚いた表情のカールトンがいた。

「教頭?」

問いかけにようやく我を取り戻したという感じでカールトンがキャメルに呟く。

「いや、これだけしっかりと分析できるとは思っていなくてな・・・」

「教頭・・・」

すでに半分涙目のキャメル。


「あ、いやすまんすまん。」

カールトンが改めて三人に説明する。

「今彼が説明した通りの分析でほぼ間違いない、そこでだ・・・」

言葉を区切り彼らとそれぞれ目線を合わす。

否応なしに緊張感が高まっていくのを感じている三人。


「今回の編成について詳細を説明する。心して聞くように。」

いつも以上に真剣な声が執務室に静かに響いた。

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