第三節:Un incontro con la nobiltà. ー高貴との邂逅ー
第一項:出陣
第19話:恩師からの招聘
「あの時は本当に肝が冷えた、敵艦の数は倍だったし、俺が全滅すれば突入しているお前たちも全滅必死だったからなぁ。」
「いやー、お前の部隊が全滅しないか心配だったぞ、ラーク。」
「キャメルも結構苦戦してたよね、挟撃されて戦線維持が精いっぱいだったし」
「アヤメは結構涼しい顔をしてたよな・・・あの状況で。」
「そういやあの後二人は昇進試験に合格して中佐に昇進したんだっけ。私はあの後父ちゃん母ちゃんが病気になって介護休暇取ってたから昇進試験を受けられなかっただよね・・・」
少し声のトーンが落ちたアヤメの肩をバンバンと叩きながらキャメルが励ました。
「まぁ、仕方ないさ。でも、今回見事に昇進したから良しとしようぜ。」
空になったコーヒーカップとデザート皿を前に時間を忘れて語らう三人。
「さて、そろそろ戻るか。」ラークが二人を促し、現実に引き戻す。
時計を見れば昼の休憩時間もあと少しで終了する。慌てて身支度を整え、3人は店を後にした。
「ひとまずは追加の指示待ちだな、恐らくそのうち連絡が来るだろう。」ラークが腕時計に目をやりながら話す。
「あぁ、話はそこからだな。」キャメルがお釣りの300デニルを財布に入れながら適当につぶやく。
「じゃぁ、多分次は一緒に呼び出されるだろうね、あの教頭先生ならまとめて呼び出しそう。」アヤメがカラカラ笑う。
『じゃぁ』三人は片手をあげ、それぞれの職場へと戻っていった。
イストラン海戦の後、3人は第五艦隊から異動となり、ラークは昇進後に制式艦体には所属しない国内治安維持の独立小艦隊指揮官となり、地方海賊の討伐や海難事故の救護活動等を主任務としていた。
キャメルは昇進の後に艦隊駐在を離れ、主に対西方大陸の抑止力として配置されている陸軍第三師団へ転属となった。そして、邦歴2100年にユールハイドが建国される直前に、当時混乱していた現地から国土として獲得した西方大陸東端にあるヘッジス半島に設置されている大使館に陸軍諜報部員として配属され、大陸に潜伏し主にユールハイドとオーザリクの情報収集任務に当たり、首都との往復を忙しく行っていた。
アヤメは介護の為一年ほど休職した後に復帰した。彼女も異動し艦隊駐在の海兵隊勤務から、主に地方での叛乱分子を鎮圧する部隊に所属を移していた。この時代、叛乱が頻発しているわけではなかったが、元が小国の連合体であり更に大小さまざまな島々で構成されているため、国土の隅々まで目が届きづらく、叛乱の起きやすさとしては他国より危険度が上がる。
彼女も、自らの部隊を率いて大小様々な事案を処理していった。
拳銃所持程度の小規模盗賊団の摘発から、大隊規模の武装蜂起まであらゆる武力集団をアヤメ指揮のもとに鎮圧していった。本人も命令した統合作戦本部も企図していなかったが、
その実績が認められ今回中佐への昇進辞令が下ったのである。
現在彼女は首都カナビスにある海兵隊本部から各地に駐屯する部下の海兵隊を指揮するとともに、新兵の訓練を担う任務に従じている。鬼のようにハードな訓練であるにも関わらず指導する彼女の美貌故か、若い新兵ほど恍惚とした表情で脱落せずに耐えきる者が多いというのがもっぱらの噂だ。
その後7月10日の午前9時には3人の元に、予想通りカールトンの元に出頭するように統合作戦本部人事部から命令が下った。
統合作戦本部にある海軍艦隊司令部内のカールトンの執務室にアヤメが入室した時、既に二人は先に入室していた。
「海兵隊ランバージャック少佐、出頭致しました!」背筋を伸ばした敬礼で申告する。
「遅いぞ、アヤメ」ラークがたしなめキャメルが横で頷く。二人の前にあるデスクの椅子には既にカールトンが座っており、三人がそろうのを待っていた。
「ランバージャック少佐、待っていた。これで三人揃ったな、座ってくれ。」
カールトンの勧めに従い三人がソファに腰掛ける。
「さて、もう気付いていると思うが今回の人事は私の希望だ。重責を担わされる代わりに諸君らを麾下に欲しいと要請した。意外とすんなりいったぞ。」軽い笑みを浮かべながらカールトンが語り掛けた。
「それは心外ですね、今の部署にはもう少し泣いて喚いて引き止めて欲しいものですが・・・」キャメルが苦笑しながらひらひらと手を振った。
「まぁそう言うな。今回の人事はかなり気合が入っている。諸君らの実績を鑑みて、これから一番危うくなりそうな最前線に配置転換したのだ。むしろ力量を認められったと思ってほしい」
「ありがとうございます、認められていると思っておきます」カールトンの言葉にラークが返した。
「んで、教頭先生。私たちを呼んだのは思い出語りではないですよね?どんな任務になるんですか?」アヤメがカールトンに問いかける。
「ははは・・・これからは教頭はなるべくやめなさい、外で聞かれると良くない。」
「はーい」
「素直なのは良いことだ、ランバージャック少佐・・・さて、何故貴官らを招聘して私の麾下に加わったのか、そろそろ聞いてもらおうか・・・」
デスクのノートPCを操作すると、壁面の大型モニターに地図やデータが映し出された。
「今回、諸君らは通常の人事編成で無いから違和感を感じているだろうな。だが、メルセリア南部の地方領主が武力蜂起を起こすかもしれない・・・と言う話が出ている。」
三人が軽い驚きの表情を浮かべ、カールトンの次の話を待った。
そこで語られたのは驚くべき内容であった。
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