第18話:旗艦白兵戦(3)

戦闘終結後、ラークの部隊とニルたちの揚陸艦部隊は集結して来た第五艦隊旗艦部隊と合流した。捕虜の引見と拿捕した艦船や物資の司令官への引き渡しである。

第五艦隊旗艦『ロード・ベンソン』のブリーフィングルームに集結したニル中佐とラーク達3名、そして捕虜の代表。上座には第五艦隊司令官であるタイム・ハーバルゴールド中将と艦隊の幹部と訓練部隊の指揮官達。万座の中でラーク・キャメル・アヤメら3名による報告が始まった。


・・・タイム・ハーバルゴールド。同盟海軍中将、第五艦隊司令官。グレーの豊かな顎髭と口髭を持ち、厳しい表情ながらも柔和な雰囲気を併せ持つ初老の軍人である。彼は優れた魔導士としても知られ、特に水と氷の魔法を得意とし器械武術にも精通しており、特にトンファーを趣味とし、魔法と組み合わせた個人戦闘の能力は未だに現役級の腕前だ・・・


一通り報告が終わると、中将の副官が捕虜である敵司令官の尋問を始めた。

その中で明かされたのは、彼らがメルセリア帝国の属国の一つに所属する軍人であり、司令官の彼は少将であること、戦艦に関しては明確な入手経路は知らないがスラル製の払い下げ軍艦であることは間違いなく、軍上層部に直接持ち込まれて購入した代物らしいという事。

彼らは艦の能力を図るために航海をし、必要があれば戦闘をしてよいと言われて当海域を航行していた事ぐらいあった。政治的な背景や、上層部の思惑などは全く知らされていなかった。


「当然の結果だろうが、指揮官がこの程度の情報しか持っていないのでは、親玉であるメルセリアの責任を問うのは難しいか・・・のらりくらりで逃げるだろうな。」中将が腕を組んでうなる。

ニル中佐が応える。

「スラルに関しても、不要になった軍艦を払い下げただけだと言われれば追及も難しいでしょうな。」


「うむ・・・」中将はしばしの沈思の後、表情を変えラーク達に向き直り声をかけた。

「貴官らはよくやってくれた、あれだけ不利な状況で良く死者を出さずに制圧してくれたものだ。ニル中佐、貴官もよくやってくれた」

「小官は彼らに多少のアドバイスはしましたが、今回はオブザーバー参加の予定でしたので・・・むしろほぼすべての指揮権は彼らに委ねておりました。」

「いや、それが良いと言っているのだ。普通の軍人はこういう時に下位の者に権限委譲と言うのはなかなかできないものでな。委譲した方が良いとわかっていてもつい口をはさみたくなってしまう。だが貴官は今回の編成で実戦が発生した場合に指揮権に問題があることに気づいていたからこそ、彼らに委譲したのだろう?そして、彼ら3名は気心の知れた間柄と聞く。そういう仲も連携にプラスに働くと判断したのだろう。結果として良い判断だった。」


「ありがとうございます。おほめに預かり恐縮です。スピークス少佐、メビウス少佐、ランバージャック少佐、後は君たちが話したまえ。」

ニル中佐が一礼し一歩下がる。呼ばれた三名は代わって一歩前に進み、緊張した面持ちで一礼し、中将の発言を待った。


「報告は受けている、貴官らの武勇は素晴らしかった。」

「まずスピークス少佐、貴官の艦隊運用と指揮は良かった。敵の連携不足に付け入り的確な挑発と陽動で、敵艦隊を引きずり出し逆撃を加え白兵戦部隊が突入する隙を作りだし、尚且つ不可能と考えられた敵艦隊の壊滅をほぼ成し遂げた。素晴らしい戦果である」


「次にメビウス少佐、ランバージャック少佐。貴官らも敵旗艦に果敢に突入し司令官の生け捕りに成功、大量の艦艇や物資の拿捕、捕虜の獲得に貢献した。陸軍と海兵隊双方の協力が無ければ成し遂げられなかった。連携作戦、見事である。」


『はっ!』三人は深々と頭を下げる。


「おほめに預かり光栄です。今回はニル中佐の寛大な処置と、我ら三人が協力し合えたことによる結果と考えております。」代表してラークが発現した。

「今後も精進してまいります。」再び3人は深々と頭を下げた。


「うむ、ではこれにて会議は終了する。戦闘中に嵐も過ぎ去り天気が回復した、当面の間軍事的脅威はないだろうから、当初の配置通り各部隊は訓練海域に向かうように。」

ざわめきが起きる。あれだけの戦闘の後にまた訓練を行うのだろうか・・・?


「慌てるな。訓練内容は変更とする。『各部隊は当初の予定目的地に向かえ。訓練は現地到着を以て終了とし、後は現地での懇親を深めるように』だ。」中将がにやりと笑う。

一瞬の施行の後、参集していた指揮官達から歓声が上がった。要は『これで勤務終了にしてやるから、後は現地に金を落としに行ってこい。それも大事な仕事だ。』と暗に言われたわけである。

指揮官たちがそれぞれ辞去の挨拶を述べ退去して自らの乗艦に戻っていく。

捕虜たちはロード・ベンソンの捕虜用留置場に収容され、ブリーフィングルームには中将と副官、ニル中佐とラーク達三名が残った。


「中将閣下、ジョン・ニル中佐以下四名、イストラン上陸訓練隊もこれにて辞去致します。」揃って敬礼をしながら退去しようとした四人を中将が呼び止めた。

「貴官らについては突発的な軍事行動とは言え、評価に値する戦果を挙げている。4名とも昇進の考課にプラスしておくのでな。それでは気を付けて戻りたまえ。」


再度四人が中将に向き直り、敬礼を行うと今度こそ本当に退去していった。


「あの三人は伸びるだろうな。私の元で鍛え上げておかないと。」

「左様ですな、閣下。彼らは将来軍の中核に行って貰わねばならない才覚を持っていると小官も考えます。」副官の同意に中将が軽く一瞥を向けた。

「うむ」


その後、第五艦隊の各部隊はラーク達も御多分に漏れず、それぞれの目的地で懇親を深めた後、帰路についた。


その後、イストラン海戦は小規模ながら激闘であったと軍の記録簿に記載されることになる。

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