第11話
私はサー・ガレン、幾度も繰り返される人生を生き、エリンと出会い、失い、そして再び出会ってきた老騎士だ。
この世界で、彼女は野原に立つただの村娘として私の前にいる。五十を過ぎた私の白髪交じりの頭と、古傷だらけの体は、彼女の若さと無垢さに比べるとあまりにもみすぼらしい。それでも、彼女は私を笑顔で迎え、こう言った。
「今度こそ一緒に幸せになろうね!」
その言葉が、私の魂に深く響き、過去の全てを一瞬で塗り替えた。
エリン……お前がそんなことを言うなんて。私は立ち尽くし、彼女の瞳を見つめた。そこには純粋な喜びと、私への信頼が宿っている。彼女の言葉は、私が何度も繰り返してきた人生の痛みを知っているかのような深さを持っていた。
「今度こそ」
その一言に、彼女が私との絆を、魂のどこかで感じていることを確信した。彼女が待っていてくれたこと、私が遅すぎたこと、そして今、彼女がただの女の子として私の隣にいること――全てが繋がった。
私は彼女に近づき、その小さな手を握った。「エリン、お前がそう言うなら、私はもう迷わない。今度こそ、お前と幸せになるよ」と答えた。声が震え、涙がこぼれそうになるのを堪えた。彼女は私の手を握り返し、「うん!約束だよ、ガレンさん。私、ガレンさんと一緒にいるのが一番幸せだから」と笑った。その笑顔が、私の心の傷を癒し、これまで失ってきた全てを償うようだった。
私は思う。どの世界でも、彼女を救えなかった。魔法使いとして、貴族の娘として、王女として、彼女はいつも何かを背負い、私はいつも彼女を守りきれなかった。彼女が「ただの女の子になりたかった」と願ったその声が、私をここまで導いた。
そして今、彼女はただの村娘として、私に幸せを求めている。彼女の願いを、私はやっと叶えられるのかもしれない。
「エリン、行こう。野原を歩いて、川辺で夕陽を見よう。お前が笑うなら、それだけでいい」
と私が言うと、彼女は目を輝かせて頷いた。
「うん、いいね!それから、花冠も作りたいな。ガレンさんに似合うよ!」
彼女が私の手を引っ張り、野原を歩き始める。私はその背を追いながら、初めて感じた。繰り返される人生の中で、私は今、彼女と共にいるだけでいいのだと。
過去の悲劇が脳裏をよぎる。彼女が魔獣に襲われた世界、吊るし首にされた世界、自ら命を絶った世界。それでも、彼女は私を待っていてくれた。そして今、「今度こそ一緒に幸せになろう」と言う。私はもう遅れない。彼女を待たせない。彼女がただの女の子として笑えるこの世界で、私は彼女のそばにいる。それが私の幸せだ。
夕陽が野原を赤く染める中、私は彼女と並んで座った。彼女が私の肩に寄りかかり、
「ガレンさん、大好きだよ」
と呟く。私は彼女の頭にそっと手を置き、
「私もだ、エリン。お前がいてくれるなら、それでいい」
と答えた。彼女の温もりが、私の疲れた体に染み込む。この瞬間が、私にとっての永遠だ。
エリン、私の愛するただの女の子。お前の「今度こそ」が、私に新たな人生を与えた。お前と一緒に幸せになる。それが私の最後の戦いであり、最高の勝利だ。次の世界が来ようとも、この幸せを私は忘れない。お前と笑い合うこの時間が、私の全てだよ。
約束だ、エリン。ずっと一緒だ。
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