第12話

 私はサー・ガレン、幾多の人生を繰り返し、エリンと出会い、愛し、失い、そして再び巡り会ってきた老騎士だ。


 今、この世界で、彼女はただの村娘として私の隣にいる。野原の風が彼女の髪を揺らし、夕陽が彼女の笑顔を照らす。彼女が私の肩に寄りかかり、小さな声で呟いた。



「大好きだよガレンさん、世界で一番大好き」



 その言葉が、私の心に深く染み込み、五十を過ぎたこの古傷だらけの体を震わせた。


 エリン……お前がそんなことを言うなんて。私は彼女を見つめ、言葉を失った。彼女の瞳は純粋で、まっすぐに私を見ている。そこには、繰り返される人生の悲しみも、運命の重圧もない。


 ただ、私への愛だけがあった。


 私はゆっくりと息を吸い、彼女の手を握った。



「エリン、私もだ。お前が世界で一番大好きだ」



 と答えた。声が震え、涙がこぼれそうになるのを抑えきれなかった。


 彼女は私の言葉に目を丸くし、それから満面の笑みを浮かべた。「ほんと?やった!ガレンさんにそう言ってもらえるなんて、私、幸せすぎてどうしよう!」


 彼女が私の腕に飛びついてくる。私はその小さな体を抱きしめ、彼女の温もりを感じた。彼女の髪から野花の香りが漂い、彼女の笑い声が私の耳に響く。この瞬間、私は全てを悟った。


 どの世界でも、彼女を救えなかった私。だが、今、彼女は私の腕の中で笑い、私を愛している。


「お前が幸せなら、私も幸せだよ、エリン。お前がそばにいてくれるだけで、私はもう何もいらない」と私が言うと、彼女は私の胸に顔を埋めて呟いた。「私もだよ、ガレンさん。ガレンさんと一緒にいるのが、私の世界なんだから」。その言葉が、私の魂に光を灯した。彼女が私を「世界で一番大好き」と言うたび、私は思う。私もだ、エリン。


 お前が私の世界だ。



 過去の人生が脳裏をよぎる。彼女が魔獣に襲われ、王女として吊るされ、自ら命を絶った瞬間。それでも、彼女は私を待っていてくれた。そして今、ただの女の子として、私に愛を告げる。私はもう彼女を失わない。彼女が「今度こそ一緒に幸せになろう」と言った約束を、私は果たす。彼女の「大好き」が、私に生きる意味を与えてくれる。


 夕陽が沈み、空が茜色に染まる中、私は彼女を抱きしめたまま野原に座っていた。彼女が私の手を握り、「ガレンさん、明日も一緒にいようね」と言う。私は頷き、「ああ、明日も、その先もずっとだ。お前と一緒にいるよ」と答えた。彼女の笑顔が、私の疲れた心を癒す。この平穏な時間が、私にとっての永遠だ。


 エリン、私の愛するただの女の子。お前の「世界で一番大好き」が、私を救った。お前が笑い、私を愛してくれるなら、私はもう何も恐れない。繰り返される人生の中で、やっとたどり着いたこの幸せを、私は絶対に手放さない。


 お前が私の世界で一番大好きだよ、エリン。ずっと、ずっと一緒にいよう。約束だ。

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