第14話 ◆「カウンシルへ行く」◆

トゥーリとラースはいちおう、アカラ市民ということになっている。だからゆうびんやさんもアカラから毎日しんぶんやチラシやお手紙を届けてくれる。


アカラにはカウンシルというのがあった。まちのみんなの生活を助けたり、なんだかむずかしいしょるいをかいたりするところだ。


今日はラースがカウンシルに用じがあったので、トゥーリもいっしょについてきた。カウンシルにも色んな人がいた。


今日さいしょに出会ったのは、ざいせいかのギャリーだった。ギャリーは短くかりこんだかみのけをつんつんさせて、目が合うとニカッと笑ってくれる気さくな人だ。どぼくかのベルナルドと、ほけんふくしかのクロエと仲が良くて、よく三人でわちゃわちゃとトゥーリの相手をしてくれる。


ギャリーはラースとなんだかむずかしいお話をしながら、いくつかのしょるいをやりとりしつつも、ときどきトゥーリの方を向いて、なあトゥーリ!さいきんケイキが悪いよなあ、などと言ってくる。トゥーリはよくわからなかったけれど、しんみょうに、うん、と言っておくと、ギャリーはニカッと笑ってくれた。


次にほけんふくしかのまど口に行くと、クロエがトゥーリちゃんよく来たね、とほほえんでくれた。クロエはなみなみした栗色のかみのけをあごのあたりでさっぱりと切って、いつも少しだけねむそうなかおをした人だ。


トゥーリはクロエのことも好きだったけれど、ほけんふくしかのまど口に来るときんちょうした。なぜかというと、ここに来ると、その先にはヨボウセッシュが待っていることが多かったからだ。ヨボウセッシュはカウンシルの別とうに行って、シンショウ先生がちゅうしゃをうでにチクリとさしてお薬を注入するやつで、トゥーリはこのチクリとするのがにがてだった。


トゥーリがきんちょうしたかおでいると、クロエはニヤリと笑って、今日はちゅうしゃしないよ、と言ってくれた。トゥーリはほっとしてやっとクロエににっこりとえがおをかえした。


今日の用じはおしまいだ、とラースが言ったので、二人は帰ることにした。カウンシルに来るとラースは色んなむずかしいお話をしてつかれるのか、カウンシルのたてものの入り口のところにある売店で決まってのみものを買って休けいした。トゥーリもこのとき、ジュースを買ってもらった。ジュースはめったにのめない甘いのみもので、トゥーリはカウンシルに来るときはいつもこれを楽しみにしていた。


今日も売店に行くと、そこでは売店のメグさんと、ベルナルドとデニズさんがお話をしていた。三人はトゥーリたちに気づくと、こんにちは、と笑顔をむけてくれた。ラースがメグさんからのみものを買っているあいだに、トゥーリはベルナルドとデニズさんの二人とお話をする。


ベルナルドはどぼくかの人で、まちでもよく会った。すいどうかんの工じをしたり、道やはしをなおしたりしていた。ギャリーと同い年くらいの若めの人だけど、ギャリーよりつかれているように見えることが多かった。


デニズさんはアカラの市長さんで、いつも色んなおしゃれなかっこうをして、まど口にいたり、まちにいたり、色んなおしごとをしていた。


ハァーイ、トゥーリちゃん、元気?


デニズさんがいつものかがやく笑顔であいさつしてくれたので、トゥーリもにっこり笑って、元気!とへんじをした。それはなにより、とデニズさんがハイタッチしてくれた。


ベルナルドはいつもの少しつかれたかおで、くっ、とあくびをかみころした。でもしっかりトゥーリの方を向いて、よっ、と片手を上げてあいさつしてくれた。


ラースがのみものを買ってきて、トゥーリにジュースのカップをわたしてくれる。ジュースはきんきんにひえていて、オレンジのさんみとあまみがまざりあってとってもおいしかった。


売店のメグさんにありがとう、と言うと、メグさんはにっこりと笑って、こちらこそいつもありがとう、と言ってくれた。


ラースがコーヒーをのんでいると、デニズさんが、そうだわ、と手をうって、ちょっとちょっと、とラースに話しかける。


さいきんぶっそうよ、ノーチはもちろんだけど、プランダラーのうごきがかっぱつになってるみたい。こっちでもたいさくをねっているけれど、シンシュツキボツでたいへんだわ。


ベルナルドもひょうじょうをひきしめて、うん、とうなずいた。


さすがにまちの中まではやってこないけど、キャラバンがおそわれたりしてるらしい。


キャラバン、ときいて、ジェンさんたちはだいじょうぶかしらとトゥーリは少ししんぱいになった。でもジェンさんはトゥーリが知っている中でいちばんつよい人だからだいじょうぶだと思った。


プランダラーというのは、とうぞくのいっしゅで、仲間同士が組んで、めずらしいしょう品やおたからをねらうグループだった。とくにまものにかんけいするものをねらうことが多くて、のやまではまもののカジョウなシュリョウがおこなわれていたり、サーカス団や旅人、しょうばいのキャラバンがおそわれたりしていた。


トゥーリたちもそうぐうしたことがあって、多人ずうにラースがさすがにてこずっていたら、そのときたまたまそばを通ったジェンさんに助けてもらった。


とうぞくはだいたい、ねじろというものがあるようだけれど、プランダラーはかくちにシュツボツして、どうもほんきょちがわからないようだった。こんなに広いちいきで同じグループのとうぞくがけったくしているのはめずらしくて、それぞれのまちやむらはタイサクがたいへんだった。


それから、ノーチ。ノーチの正体はだれにもわかっていなかった。ずっとずっと昔からいて、人の身長くらいで、影のようなものをカーテン状にかぶったなにか、のように見える。ときたまその影のすきまから、細い枝のような手足が見えかくれした。


トゥーリたちも一、二度そうぐうしたことがあったけれど、はれの日のひるまだったので、ラースが剣をひとふりしたら、見えないスキマにすいこまれるようにしゅるしゅると消えていった。ノーチは雨の日の夕ぐれにいちばん力を増しているようだということだけわかっていた。


ノーチはなんでも「喰う」のだ。人も、どうぶつも、剣やよろいも、木や岩やまちも。昔、アカラの近くにはペルヴァというむらがあったけれど、ノーチに「喰われて」きれいさっぱり消えてしまったという。


気をつけてね、と、デニズさんはラースとトゥーリをこうごに見てしんぱいそうなかおをした。ラースは、ああ、とうなずいて、コーヒーを一気にのんだ。


カウンシルを出て少し歩くと、しみんあんぜんかのウィルとヘンリさんがパトロールからもどって来たところとバッタリ会った。ウィルがひとなつこい笑顔で、トゥーリ、ラース、元気か、とあいさつしてくれた。


ウィルは今年からカウンシルの一員になったしんまいで、やる気まんまんでいつも明るい。まちでこまった人がいるとかけつけて、おとしよりのにもつをもってあげたり、子どもたちがどうろを安全にわたれるように見はったり、ケンカをしている人たちがいればまあまあととりなしたりした。


ウィルはとっても力もちで、まちの子どもたちをうでにぶらさげてぐるぐるまわしたりした。トゥーリもやってもらったことがあるけれど、体がふわっとういて、おなかから外へひっぱられるようなかんじがして、風がびゅんびゅんしてものすごく楽しかった。


ヘンリさんはいつもおちついていて、だれにたいしてもとってもしんせつでやさしい、すてきな人だ。


トゥーリが、こんにちは、とあいさつすると、あめ色のひとみをほそめて、花がほころぶように笑って、こんにちはトゥーリちゃん、と返してくれる。トゥーリはそのすてきなえがおをずっと見ていたくて、じいと見つめていると、ヘンリさんは、トゥーリのしせんにあわせてしゃがんでお話してくれる。


ふわ、と、どこかでかいだことのあるようなかおりがする。どこでかいだのかは思い出せないけれど、ヘンリさんはほんのかすかに、そのあまいようなすずやかなようなかおりがした。


ヘンリさんはよく笑う人だ。トゥーリとお話ししていると、思っていたよりごうかいに、わはは、と笑う。笑いのツボがあさいのだとギャリーが言っていた。


今日もヘンリさんはやさしくほほえんで、こんにちは、とあいさつしてくれた。トゥーリはなぜだか、ほんの少しはずかしくなって、ラースの服をつかんで、こんにちは、と返した。


ウィルとラースはプランダラーのことを話している。そのあいだに、ヘンリさんはしゃがんで、トゥーリとお話ししてくれた。元気?今日はおでかけ、楽しかったかい?ジュースをのんだの?いいね。


トゥーリは、ヘンリさんとずっとお話ししていたかったけれど、ラースがウィルとお話が終わったので、帰ろう、とうながしてきた。トゥーリが小さい声でさようなら、と言うと、ヘンリさんは、またね、と手をふってくれた。それがうれしくてトゥーリは少しジャンプして、ラースと手をつないだ。


こんどはいつカウンシルにくる?


トゥーリがうきうきしてたずねると、ラースは、そうだなあ、と上の空だ。


ねえっ、いつ、くる、のっ?


トゥーリがラースのうでをふりまわすと、ラースはわかったわかった、そのうちな、とはぐらかした。


そのうちっていつ、と、なおラースのうでをふりまわしながら、トゥーリはヘンリさんのかすかな甘いかおりを思い出そうとする。でもかおりというのは、思い出すのがむずかしくて、ぜんぜんわからなかった。それがざんねんなような、ちょうどよいような気がした。

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