第12話 ■「お客さんが来る」■
今日はトゥーリとラースの家にお客さんが来た。
さいしょにチリンチリンとよびりんがなったとき、トゥーリはラウリか、カイたちが来たのかと思って、お絵描きをしていたスケッチブックからかおをあげて立ち上がった。
でも、いつもとちがって、こんにちはーラウリでーすというのほほんとした声も、あそびに来たぞーというカイたちのにぎやかな声もしてこない。
かわりに、コンコンとドアをたたく音。
知らない人だ。
どきんとして、トゥーリはぎゅっとふくのすそをにぎった。知らない人が家に来るのは、はじめてだった。
トゥーリがじっとしていたら、もういちどチリンチリンとよびりんがなった。おくのへやからラースが出てきて、ドアをあける。
外には、せのたかい男の人がふたり立っていた。ふたりともきっちりしたふくを着ている。
ラースは男の人たちと少しおはなしして、ふたりを家にまねきいれた。ひとりがトゥーリに気づいて、ニコッと笑ってこんにちはと言った。もうひとりは、ひょうじょうをかえないまま、ぺこりと小さくあたまをさげた。
ラースが、お客さんだ、と言ったので、トゥーリも、こんにちは、とぺこりとおじぎしてあいさつした。何だかきんちょうして、お茶を入れはじめたラースのうしろにかくれてしまったら、ラースがおくでおとなしくしていろと言った。
トゥーリはこくっとうなづいて、おくのへやに走っていって、ラースのベッドにもぐりこんだ。ラースの、おひさまのようなにおいがして、ちょっとほっとした。
ラースとふたりのお客さんが何かを話している声がきこえて、イスをひく音がする。長くお話をするのかも。
声はひくくもごもごして、トゥーリには何を言っているのか聞きとれない。でも、ラウリや、カイたちが来たときのように、楽しそうには聞こえない。きっとだいじなお話なんだ。
前にだいじなお話をしたとき、ラースは少しこわいかおをしていた。それは、はじめてまちのカウンシルにいったときで、トゥーリにはラースたちがなんのお話をしているのかさっぱりわからなかったけれど、どうやら自分にかんけいのあることみたいだということだけはわかった。トゥーリは、自分のことでラースがこわいかおや、かなしいかおをするのは、ちょっといやだった。
もごもごした声はずっとつづいている。たまに、かんがえているように、しずかになる。そのくりかえしに耳をそばだてているうちに、トゥーリはうとうととねむくなってきた。
トゥーリ、と呼ばれて、はっとする。
ラースがふとんをめくってのぞきこんでいた。へやはスミレ色にうすぐらくなっていた。
お客さんは?トゥーリがぼんやりときくと、帰った、と、ラースはしずかに答えた。いつものラースだ。トゥーリはいつのまにかねむってしまっていたのだ。ゆうはんのいいにおいがする。
何のお話だったの?とトゥーリが聞くと、ラースはしずかに、大きなまちにあたらしい大きないえをたくさん作ったから、こんなへんぴなところに住んでいないでひっこしてきたらどうだ、って話だ、と答えた。
トゥーリは、なんとなく、それはウソじゃないだろうけど、ぜんぶのことじゃないだろうなと思った。でも、それを言っても、ラースはきっとだんまりをきめこんで、おやすみを言うまでなにも言わなくなるだろうから、トゥーリは、ひっこしたくないなあ、このおうち好きだもん、とだけ言っておいた。
ひっこさないさ、とラースは言って、あたたかい手でトゥーリのあたまをくしゃっとなでてくれた。
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