第8話 ▽「ジャム作りをする」▽
ぱちん、と、トゥーリははさみでりんごの実をえだから切り取った。真っ赤でつやつやのりんごは甘ずっぱい香りがしてトゥーリはふかくしんこきゅうした。そしてトゥーリを抱き上げているラースのかおにも近づけると、ラースもくんくんと香りをかいで、うん、とうなずいた。
今日はラウリのおうちでりんごのジャム作りをするのだ。ラウリのおうちの入り口にはりんごの木があって、さんさんと太ようの光をあびて甘い実がなる。それからお庭にはベリーのしげみもいくつかあって、初夏にはブルーベリーやラズベリーにいちごもとれる。
トゥーリがかごいっぱいにりんごを収かくしている間に、ラウリはたくさんのビンをねっとうでしょうどくして待っていた。背の高いのやずんぐりしたの、大きいのも小さいのも、丸いのも四角いのもあってにぎやかだ。
まずはりんごをよく洗って、赤い皮をむいていく。ラウリはとってもきようで、ナイフを動かすことなくりんごをくるくるっと回すとりんごの皮が赤いリボンみたいにしゅるしゅるとのびた。ラウリがむいたリンゴをラースがいちょう切りにして、変色しないように塩水につけていく。トゥーリは皮の方を細かくきざんでボウルにこんもりと入れていく。
それから2つのなべを火にかけて、それぞれりんごの実と皮を入れ、お水とおさとうを加えてやさしくかき混ぜる。おさとうがとけて、りんごとなじんで少しずつ少しずつとろとろしてくる。りんごの皮はにていると、はじめはだんだん色がぬけて白っぽくなるけれど、に汁がピンクになってきてまたあざやかな赤になるのだ。それがまるでまほうみたいでトゥーリはひとときも目がはなせないのだ。
あくを取りながらことこととにて、さいごにレモン汁を加えてできあがり。でもここからがラウリのりんごジャムのとくべつなところなのだ。
ラウリの薬草園でとれたディルやローズマリーのかわかしたものや、シナモン、お茶っぱなんかを、それぞれのびんにりんごのジャムといっしょに入れるのだ。そうするとビンごとにぜんぜんちがう風味のジャムが出来上がる。毎日食べてもあきないとくせいりんごジャムの完成だ。
ジャムのあらねつを取っている間に、ラウリがジャムを作るかたわらで作っておいたアップルパイを食べる。パイ生地がさくさくして、りんごの甘さがじゅわっと口の中に広がって、トゥーリはほっぺたが落ちそうになるのだ。
ラウリのアップルパイはカスタードが入っていて、春のひなたの光みたいな、とってもやさしい味がした。ラースは大きな口でくわっと一切れぺろり、二切れぺろりと平らげるので、トゥーリも負けじと一切れめを平らげて、二切れめに手をのばした。
そんなにあわてないで、たくさんあるからゆっくり食べなよ、とラウリが笑うので、トゥーリはおちついてじっくりとパイを味わうことにした。
その日はラウリのおうちにお泊まりすることになった。明日の朝一番に、りんごのジャムをトーストにのせて食べるのだ。トゥーリは小さくてたくさんは食べられないから、今からどのハーブのジャムをどのじゅんばんで食べるかさんだんをつけていた。
ラウリのおうちで眠るとき、おうちの中のしょくぶつたちが呼吸をして、しっとりとあたたかくてみどりのにおいがした。森に抱かれているような安心感で、トゥーリはいつのまにか眠りの世界へとけていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます