第22話  私の使えない秘剣、抱月母刀

「別にこれなら勝てるけど、だからと言ってなぁ」

 

剣を何百回か素振りしてから独り言をつぶやいた。

 私の剣の流派はおじいちゃんから教わったものだ。

 正確には教わったというよりは盗んだものだ。

 

 月華新陰流。

 気がついた時には道場主だ。

 

 極意は一つだけだ。

 無為自然剣

 道教や老荘思想の「無為自然」から。

刀はあくまで刀でしかない。人を殺せない剣はあっても人を殺さない剣はない。殺すも救うも意図せず、ただ自然に任せて剣を振るう剣。

 

 簡単にいうと、作業の繰り返しがいずれ洗練されたものにつながるということだ。

 技術なんて突き詰めれば作業の最適化に過ぎない。

 作業を繰り返し、いかに改善しようかとフィードバックしたか。

 それが技術でしかない。

 数をこなした。

 それだけ。

 私は誰よりも練習に取り組み、ただ改善した。

 

 こんなことは願望の叶え方の4つのステップと同じだ。

 一番目。願望を明確にする

 二番目、繰り返し実感する

 三番目、否定的な声を拒絶する

 四番目、湧き上がるアイディアを一つ一つと願いが叶うまで、淡々と実行していく

 種を選んでまき、適度な水分と温度を与えて、雑草を抜き、時間経過があって、収穫するという自然の摂理と同じだ。

 

 私はもう種は蒔いたし、いつもルーティンで適度な水分と温度を与えている。

 だから、時間が経てば収穫するだけなのは分かってある。

 私のすべきことはルーティンを忘れないことと雑草を抜いていくことだけだ。

 

 これが剣ならばどういうことか。

 剣の稽古をやって、どうすれば良くなるかを無限回フィードバックするということ。

 だから、私が強いし、誰も私に勝てないのも当たり前だ。

 

 かけた年月の長さから、絶対におじいちゃんに勝てないのも当たり前だ。

 そもそもおじいちゃんはスタートラインから不世出の天才と言われているから尚更勝てるわけがないし、男性と女性で骨格からして不利だ。

 

 それでもおじいちゃん以外にはそうそう負けることはないと思う。

 剣の道を極めるなんざ、めぐりはできるに決まっている、できないわけがない。

 おじいちゃんは笑顔でいつもそう言ってくれる。

 

 なんでそう自信を持ってそんなすごいことをあっさり断言できるんだろう。

 おじいちゃんの生き方を見てそう思ったことがある。

 

 自分にとって、自分が1番役に立つ。

 自分で自分を救う技術を身につければ身につけるほど人生が楽になると背中で教えてくれる気がしていた。

 

 障害はたった一つだけだろう。

 心だ。

 

 瞑想を繰り返すのは心を整えるためだ。

 瞑想を始めると、思考が迷走する。

 それをただ観察する。

 そうやって呼吸を整えつつ、思考も整える。

 

 しかし、瞑想をやってもわからない。

 母性。

 根本的にはやっぱり分からない。

 これがわからないと、どうしても究極秘技 抱月母刀ができない。

 

 そもそも若い頃からできる必要はない。

 でも私にとって怖いのはこれが生涯できないんじゃないか、一生極めてもできない無駄なことなんじゃないかと思うことだ。

 私が求めるのは結果だけだ。

 信じるなんていらない。

 目の前にあることのみ。

 今、今、今。

 そう思いながら呼吸をしていく。


「ふっ!」

 

 剣を構える。


「秘剣 桜花蓮月」

 

 咲くは刹那、散れども、残るは永遠。

 おじいちゃんから盗んだ私のお気に入りの技。

 鞘から放たれるその一撃は、桜のように儚く、月のように静かに届く。

 相手の刀を弾かず、心を折る技。

 剣を交えることなく、相手に「敗北を悟らせる」のが真の狙いだ。

 私はたいていの剣技はできる。


 しかし、唯一、私にはできない剣技がある。

 抱月母刃(ほうげつぼじん)

 

 その剣は何も切らずに包み込む。

 

 一方、私は何でも切れてしまう。

 落ちる葉を斬らないように振る剣だってできない。

 剣の理に反するものだ。

 

 この技は「攻め」ではなく、「受け入れる」ことで勝利を収める究極奥義。

構えた瞬間、敵意も殺意も包み込み、まるで母親の愛のような安らぎを相手に与えてしまう。

 斬撃は極限まで柔らかく、まるで月の光が頬を撫でるような一閃。

 しかしその一太刀には「無償の愛」が宿り、斬られたものは心の痛みすら忘れ、剣をもつ意味なくし、剣をやめてすらしてしまう。

 

 とにかくこの剣技はものすごい。

 私が初めて、おじいちゃんの抱月母刀を見た時のことは今でも忘れない。

 

 静かな月夜、舞うように近づくおじいちゃん。

 刀の動きは揺りかごのようで、見る者すら眠りへと誘う。

最期の一閃は、愛で抱きしめるようにして放たれた。

 戦いの果てに、相手すらも包む。

 怒りや悲しみを、剣で断つのではなく、受け止めることで終わらせる。

 

 最強とは、誰よりも優しいこと。

 そうだと一度見るだけで分かった。

 

 そう私は優しくはないのだ。

 私と剣を交えるとき、残念ながら、私が強いって気づけない人がいる。

 そういうとき、口に出していいならこう言ってしまうぐらいに私は優しくない。


「私が強いってわからないの? 死にたいってことなの?」

 

 仮に真剣勝負なら、喉を一突きするだけだもん。

 もちろん、現代では必要ない。

 守るためには悪の中の悪は抹殺する。

 悪の判断は難しいけれど。

 おじいちゃんはもっとはっきりしている。


「わしこそが剣の天才そのものじゃ、それをわからないものは剣を今日からやめないとだめじゃ、尊いい命は大切にしないとな」

 

 そう言って、がはははと楽しそうに笑う。

 おじいちゃんのその言葉にむかついたものは全員叩きのめした。

 

 その中でもおじいちゃんを本気で殺そうとしてくる人のことがおじいちゃんは大好きだった。

 2回目叩きのめしたとき、もれなく全員おじいちゃんの弟子になったけど。

 

 おじいちゃんのお弟子さん程度なら私だって叩きのめせる。

 問題は男になったとしても、おじいちゃんに勝てるビジョンが1ミリもわかないことだ。

 

 私が剣を交えた中でおじいちゃんはどうしても興味を持ってしまう。

 絶対に勝てないからだ。

 勝ち方を探ることでまだまだ強くなれる。

 おかげで私は剣の深みをまだ知れる。

 

 そういうわけで、私が簡単に勝てる人には興味を持てない。

 本当につまらないからだ。

 基礎を学び直して欲しい。 

 本当にそれだけでいい。

 

 しかし、唯一の例外がいる。

 歩夢君だ。

 私に剣を10戦挑んできた。

 それも連続で。

 全部、私が叩きのめした。

 でも、全部戦い方をしてきた。

 

 なんでそこまで頑張れるの?

 私に絶対に勝てないってわかるでしょ。

 そういう隙がまったくないほどの迫力しかなかった。

 だんだん本気にさせられている。

 

 歩夢君は君はいったい何がしたいの?

 私は歩夢君のママになる。

 

 君はいったい何がしたいの?

 なんでそこまで頑張れるの。

 私は持ってない。

 なぜか、そう言う歩夢くんを見ているとキュンときちゃう私がいる。

 ちゃんと心を落ち着かせないといけない。

 今の私がなりたいのは歩夢くんの恋人じゃなくて、ママなんだから。

 

 次は鈴奈ちゃんにだって負けないんだから。


◆◆◆あとがき、お礼、お願い◆◆◆


ここまでお読みいただきありがとうございます。


めぐりちゃんの1人で反省している回でした。


ちなみに


こんな技も考えていました。


【秘剣】月閃花影(げっせんかえい)
月明かりに照らされた花の影――それは気づけば己に届く剣。
わずかに遅れて“心に届く”見えない斬撃。
心の迷いを切る剣。斬られた者はしばらく立ち尽くす。




【秘剣】
無月心葬(むげつしんそう)
「勝つため」ではなく、「終わらせるため」の剣。相手の“心の痛み”を断つためにのみ使われる封印技。その一太刀を受けた者は、記憶が涙と共に流れる。  


いかがでしょうか?


さてさて、


もし、


めぐりちゃんかっこいい


おじいちゃん好き


めぐりちゃん、可愛い


と思ってくださいましたら、


♡、☆☆☆とフォローを何卒お願いいたします。


レビューや応援コメントを書いてくださったらできるだけすぐ読みますし、返信も速やかに致します。


次回は鈴奈ちゃんにリベンジするめぐりちゃんの話です。


公開日は5月20日6時頃です。


 

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