　盗賊のリーダーから漏れた名前——ガルヴィス伯爵。

　その名を聞いた長老の顔色がさっと変わった。彼は村人たちを見渡し、低く重い声で言った。

「……ガルヴィス伯爵がこの村に興味を持ったというのか」

　村人たちはざわめき、不安の色を滲ませた。ガルヴィス伯爵は辺境の貴族の一人でありながら、冷酷で野心家として知られている。彼の領地にある村々は、彼の重税と圧政のもとで疲弊していた。

　リリアナは長老の沈痛な表情を見て、さらに問いかけた。

「伯爵について、何か知っているのですか？」

　長老はしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。

「ガルヴィス伯爵は、この辺境の土地を掌握しようとしている。これまでにも、いくつかの村が彼の手によって支配されてきた。そして、支配された村は皆、同じ運命を辿っている……」

「同じ運命……？」

　リリアナが問い返すと、長老は悲しげに目を伏せた。

「最初は交易の申し出だ。伯爵の配下がやってきて、『守ってやる』と言葉巧みに近づく。しかし、一度でも伯爵に従った村は、やがて重税に苦しめられ、労働力を奪われ、抵抗できなくなった。最終的には、村そのものが伯爵の私兵に占領され、完全に支配される……」

　村人たちの間から、恐怖のざわめきが広がった。

「そんな……じゃあ、俺たちの村も……」

「伯爵に目をつけられたら、もう終わりじゃないか……」

　リリアナは静かに辺りを見渡し、心を決めた。この村がただの盗賊の襲撃ではなく、より大きな脅威に晒されているのなら、放っておくわけにはいかない。

「いいえ、まだ終わりではありません」

　彼女の強い言葉に、村人たちは驚いて顔を上げた。

「私はこの村を守ります。伯爵の支配に屈しないように……私にできることをしましょう」

　その宣言に、村人たちの中に小さな希望の火が灯る。だが、彼らがまだ知らないのは——すでにガルヴィス伯爵の影が、村のすぐそこまで迫っているということだった。

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