追放の旅路

 王宮の門が重々しく閉ざされる音が、リリアナの耳に焼きついた。もう二度と戻れない場所——それが王国の聖女として過ごした城だった。


 彼女を囲むのは、無言のまま彼女を見下ろす騎士たち。誰もが、まるで罪人を見送るような目をしていた。


「歩け」


 護衛兵の一人が、冷たい声で命じる。リリアナは足を踏み出すしかなかった。道行く人々は、噂を聞きつけたのか、彼女の姿を見てひそひそと囁き合う。


「聖女が追放されたって……?」

「何か悪いことでもしたのか?」


 問いかける者はいたが、リリアナに答えることはできなかった。ただ、自らの心を落ち着かせるように深く息を吸う。


 王都の外れに停められた馬車が、彼女の追放の手段だった。華やかな王宮とは異なり、ぼろぼろの木造り。まるで罪人を運ぶ檻のように見えた。


「ここに乗れ」


 兵士に促され、リリアナは何も言わずに馬車へと乗り込んだ。ドアが閉じられ、車輪がゆっくりと動き出す。


 馬車の窓から王都を眺める。自らが守り、尽くしてきた場所。貴族たちが談笑し、民が忙しなく行き交う。自分のいない世界が、何事もなかったかのように続いている。


 だが、何かがおかしかった。


 空を舞う鳥が異様に静かだ。遠くから聞こえる鐘の音が、どこか不吉な響きを持っているように感じた。


「……これは、予兆?」


 神聖な力を持つリリアナには、かすかな違和感が伝わっていた。それが何を意味するのか、今はまだ分からない。ただひとつ確かなのは——彼女の旅路は、決して平穏なものでは終わらないということだった。

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