辺境の村への到着

 幾日もの旅路を経て、リリアナを乗せた馬車はようやく目的地に辿り着いた。窓の外には荒れ果てた道が広がり、辺境の寂れた村が見えてきた。王都の華やかさとは比べ物にならない、簡素な木造の家々。屋根の藁は傷み、村の畑もどこか元気がない。


 馬車が止まると、護衛兵が無言のまま扉を開いた。リリアナは深呼吸し、震える足で地面に降り立つ。旅の疲れと追放の絶望が、体を重くしていた。


「ここが、お前の新しい居場所だ」


 護衛兵の冷淡な声が響く。王都では尊敬の対象だった彼女も、今ではただの流れ者だった。


「ここで生きていくのだな」


 リリアナは、しばし村を見渡した。村人たちは物陰から彼女を見つめ、警戒の色を隠さない。誰もが見知らぬ女の存在に戸惑い、しかし関わることをためらっているようだった。


 一人の老婆が、恐る恐る近づいてきた。


「あんた……どこから来たのかね?」


 リリアナは微笑みを作りながら答えた。


「遠いところから、参りました。少しの間、ここで暮らしたいのですが……」


 老婆は何かを考えるように彼女を見つめた後、小さく頷いた。


「この村に来たからには、手を貸してもらうよ」


 その言葉に、リリアナは僅かに安堵の息を漏らす。しかし、村人たちの冷たい視線が消えることはなかった。


 彼女の新たな生活は、まだ始まったばかりだった。

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