追放された聖女、平凡な村で暮らすつもりが、実は神に祝福された最強の魔女だった

katura

聖女の追放

 王宮の大広間に響く冷たい声が、リリアナの心を締め付けた。


「リリアナ・エルフィン。貴様を聖女の座から追放する」


 国王の玉座の前に立たされたリリアナは、信じられない言葉に震えた。長年にわたり民を癒し、導いてきた彼女の存在が、今ここで否定されようとしていた。


「私は……何か過ちを犯しましたか?」


 震える声で問いかけるが、国王は答えず、隣に立つ王太子アルベルトが口を開く。


「神託だ。新たな聖女が選ばれた。よって、お前は不要となった」


 アルベルトの隣には、華美なドレスに身を包んだ少女——エリザ・フォン・ローゼンベルグが、誇らしげに立っていた。


「これからは、私が王国を導きますわ」


 柔らかな微笑みとは裏腹に、その瞳には冷たい優越感が宿っていた。


 リリアナは戸惑った。神託? しかし、彼女は聖女として、確かに神の加護を感じていた。それが突然奪われるなど、ありえない。


「陛下、私は……まだ——」


「言い訳は無用」


 国王は厳かに断じた。


「貴様にはもう何の役割もない。すみやかに王宮を去れ」


 抗う言葉を紡ぐ前に、宮廷騎士たちが彼女の両腕を掴んだ。


「待ってください……!」


 だが、誰も彼女の言葉に耳を貸さなかった。突き刺さるような視線。冷淡な空気。王宮で支えてきた人々の中に、一人として彼女の味方は残っていなかった。


 騎士たちに腕を引かれながら、大広間を後にする。その瞬間、リリアナは振り返り、最後の希望を込めて声を上げた。


「アルベルト様、本当に……これでいいのですか?」


 王太子は微かに口元を歪めた。


「当然だ。お前がいなくなれば、すべてはうまくいく」


 その言葉を最後に、リリアナは王宮を追われた。

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