雛人形お借りします~毎年一度だけ僕の物になる特別な方法

風波野ナオ

受け継がれる思い

毎年、3月3日は幸せでなかった。


私は男の子なので、どうしても欲しかったのだが雛人形を買ってもらえなかった。

それは当時仕方ないと思っていたが、実際は置き場所や金銭面で断念したらしい。

ともかく毎年3月3日に私は決まって機嫌を損ね両親を困らせていた。


そんな6歳のひな祭り、両親に「雛人形欲しい?」と言われ、車で一時間程度の大きな屋敷に連れて行かれた。

塩造りで財を成した旧家の屋敷であったと思う。その広間には、立派な雛人形が所狭しと展示されていた。


「どれか一飾りを、ちょっとの間だけ君の物にしよう」


両親に言われると私は目を輝かせて走って見て回った。

そして一番豪勢な雛人形を指差し、


「これにする!」


満面の笑みだったそうだ。


物にすると言ってもお歌を歌ったり写真を撮ったりしただけである。

その後外食して家に着くまで終始ご機嫌で、これは我が家の恒例行事となった。




現在はささやかな雛人形を娘のために飾る立場である。が、


「もっとすごいのがほしい」


と駄々をこねられるようになったため、今年両親と同じ手を使うために旧家の屋敷に連れて行った。



「どれか一飾りを、ちょっとの間だけ君の物にしよう」


と言うやいなや、娘は目を輝かせながら一目散に走り出した。

その姿が過去の自分と重なり合う。あの時のきみは幸せでしたか。


私の視線に気付いたのか、娘は立ち止まり、


「うん、せかいいちしあわせ!」


そう答えた。

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