第12話「大蛇 其の三」

陰陽師が使う術にはさまざまなものがある。通常の攻撃の術、魔刃撃。退治するための術、魔殺法。封印するための術、鎮静法。一時的に怯ませる術、閃光法などがある。これらの術を使って全国の陰陽師は数々の妖怪を退治してきた。


珠羅の足を掴んでいる手を退けるには一時的に怯ませる術である、閃光法を使う必要がある。妖怪を傷つけることを好かない昇龍は、術など滅多に使わないし使いたくもないが、今回はやむを得ない。


「術式!閃光法!!」


昇龍が術を唱えると、目も眩むような激しい光が手に直撃し、珠羅を引っ張る手の力が弱まったその瞬間、珠羅は引き摺られていない内に大急ぎで昇龍の後ろに隠れた。


「ありがとお昇龍!!死ぬとこやったぁ…」


「助けるのは当たり前だよ!でもこの術は一時的に相手を怯ませるだけだから、すぐ復活すると思うよ。珠羅くんはなるべく僕の後ろから離れないでいてね。」


「わかった!」


「というかあの妖怪は何なんだろう沼の中から出てくる手の妖怪なんていたかな話せないのかな友達になれないかな」


「うおっ…」


先刻かっこいいことを言っていた筈なのに、急に早口になって妖怪を語り出した昇龍に珠羅はドン引きをした。


「そ…そうだ!葉狗君も沼の中に引き摺り込まれたんやないか?!」


「!その可能性も考えられるかも…」


このままでは一生語り続けてしまうので珠羅はわざと会話を逸らし、昇龍の謎のモードを食い止めることに成功した。だが、葉狗が引き摺り込まれた可能性もゼロではない。生きていることすらわからない。


「ど…どないしよ…もう死んでるっちゅーことはないん…?」


「縁起でもないこと言わないでよぉ!天邪鬼は鬼だから、体は頑丈なはずだよ!」


確かめる術もないので、二人はありとあらゆる方法を考えた。


「なぁ、攻撃する術あるんやろ?」


「あるけど…出来るだけ攻撃はしたくないしなぁ…うん…」


「はぁ?!ならいっそのこと封印しちゃおうや!」


「今この状態で封印したら、中にいるかもしれない葉狗くんごと封印しちゃうよ!」


「えぇぇえ……ん?昇龍、あれ…」


珠羅の一言に昇龍が沼を見ると、沼の底から影が浮かんで見えた。その影に気づいた二人は葉狗だと思い、沼の方へと駆け出した。


「やっぱ溺れてたんか!!」


「葉狗くーん!!大丈夫ー?!」


しかし大きな水音と共に沼から飛び出してきたのは巨大な蛇の妖怪、大蛇だった。


「ぬわぁぁあああああ?!でっっっか!!」


「あれは…大蛇だよ!!」

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陰陽師のお悩み相談 コトノハ @happamosamosa

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