第10話「大蛇 其の一」
日が沈みかけ森が暗くなってきた頃、天邪鬼の葉狗は1人、山の麓の森にいた。実は昇龍の誕生日がもう少しなのだ。日頃の感謝を込めて葉狗は何か木材でつくれないかと、麓の森へ調達しに来ていた。…母が死んだ日も同じような時間帯だった。
豪雨が降り続き、雷も鳴り響いていた夕方ごろ。母は食料を調達してくるといい、人間に見つからないよう角をバンダナで隠して、街の方へと出かけていった。…それが生きている母と話した最後の時間となったのだ。
流石に帰りが遅く心配した葉狗は、母と同じように角をバンダナで隠して母のいる街へと向かった。暫く歩いて漸く街に着き、母を探した。民家には流石にいないだおうと思い、広場に向かったのだ。
ーそこで葉狗が見たのは、十字のようなものに磔にされ、槍が身体に何本も突き刺さり息絶えていた、無惨な姿の母だった。バンダナは外されていて、角が顕になっていた。恐らく、街の住民は母が天邪鬼である事を以前から知っていたのだろう。陰陽師に退治されるのではなく、にんげんと同じような殺し方で。
葉狗は母の死体をこの目で見た時、身体中に電気が走ったように思える程のショックだった。何故天邪鬼である事がバレていたのかはわからない。困惑や混乱が体の中で渦巻き、それから葉狗は記憶が全く無い。覚えているのは街のゴミ捨て場に捨てられていた母の片方のイヤリングを持ち帰ったことだけだった。そのイヤリングも油断して人間に取られてしまったが、昇龍が取り返してくれたのである。
その昇龍の為の木材を探しているが、なかなか頑丈そうなものは見つからなかった。もう少し奥の方まで行ってみようと暫く足を進めると、大きな沼があった。
「こんなところに沼があったんだ…」
葉狗がもう少し沼を覗こうと近づいた。
その時、突然足を何かに掴まれた気がした。
「え」
声を上げる暇もないまま、葉狗は深い沼へと引き摺り込まれた。
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「あぁ〜…暇やぁああ」
山奥にある小屋で1人胡座をかいた狐火は怠そうに声を発した。生憎、遊び相手である天邪鬼が木材を取りに出かけているのだ。何でも、木材でつくりたいものがあるらしい。天邪鬼は出かける前に狐火を誘ったが、少々めんどくさかったので断った。今となっては行けばよかったと後悔している。
「はぁ…誰か来んかなぁ…」
その時、小屋の扉が元気良く開かれた。
「たのもーっ!!!!!」
「!昇龍やんか!!」
狐火は嬉しそうに九つの尻尾をブンブン振り回した。遊び相手が来て非常に嬉しいのである。
「おはよう珠羅くん!あれ、葉狗くんは?」
「なんかものづくりがしたいらしくて木材を取りに行っちゃったんや。山の麓の森の方まで…僕を置いて!!」
「珠羅くんがめんどくさくて行かなかったんじゃないの?」
「ぐっ…何故それを…!!」
図星だとでも言うようにわざとらしい演技をする珠羅に昇龍は大声で笑った。
「じゃ、迎えに行こうか!」
「せやな。」
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