第6話「狐火 其のニ」
「あらまぁ…僕のこと知ってるんやね。」
声のした方を振り返ると、短い白髪に赤い瞳の整った顔立ちをした若々しい男が立っていた。着物の後ろには八本の尻尾が生え、頭には獣の耳がある。
「初めまして!人間の昇龍です!!わぁぁぁ狐火だ!!!!」
「ぼくは天邪鬼です。こんばんは。」
昇龍と天邪鬼がそれぞれ自己紹介をすると、狐火は信じられないと言ったような目で昇龍達を見つめた。人間と妖怪が仲良さそうにいるところを見たら、人間でも妖怪でも驚くはずだ。
「な…何で人間と妖怪が一緒におるん?…まぁ、ええわ。それで?人間様と天邪鬼が僕に用かえ?」
「人間を惑わせて遭難させてるの、本当?」
「…やめろって言いに来たんか?それは無理やな。僕も退屈やねん、何かせんと死んでまう。だから人間で遊んでるっちゅうことや。いい遊び道具やしな…遭難しただけで焦って…いい反応が見られるんやで?」
「本当は遊んでもいいよって言いたいとこなんだけど…このままにしてたら依頼を破棄したって思われて神社に苦情が殺到するんだ。」
神社。その単語を聞いた狐火はピクッと肩を揺らした。
「成程…君、陰陽師か。何処かの誰かさんの依頼で、僕を退治するつもりやな?」
「え?いやいや僕は尊い生き物の退治なんて…」
「そうはさせへんで。君らも遭難死すればええんや!!」
狐火は両手を合わせ、赤く光る術式のようなものを展開した。
「何あれかっこいい!!…ってそうじゃなかった!狐火さん、僕達に敵意は…」
その瞬間昇龍達の視界は光に包まれた。
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「…さん……兄さん………陰陽師のお兄さん!!」
微かに声が聞こえ昇龍が目を覚ますと、天邪鬼が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「あれ…天邪鬼くん…はっ!狐火さんは?!」
急いで辺りを見渡すと見覚えのない山中だった。恐らく狐火の術式で昇龍達を山奥へ転送させたのだろう。
「困ったな…退治するつもりはないのに…」
怒らせてしまっては遊びを簡単に辞めてはくれないだろうと昇龍が狐火を説得できず落ち込んでいると、天邪鬼が明るい声で励ました。
「きっと大丈夫ですよ!お兄さんの気持ち、僕にも伝わりましたから!」
「天邪鬼くん…!!ありがとう!元気出てきた!!」
「良かったです!!」
…同時刻、昇龍達の様子を見ていた狐火は苛立っていた。
「何やねん…!もっと焦れよ!君ら遭難したんやぞ?!そんな友情に満ちた顔されたら何も面白くあらへんやんかぁ!!」
今まで遭難させた人間は絶望した顔で助けを求めていたのに…この人間は自分が出会ってきた中で特に異常だ。
「…まずまず陰陽師とわかっているのに何であの天邪鬼は一緒いるんや…脅されているわけでもなさそうやし、何なら正真正銘の友達って感じやし…ほーんま、何が何だかわからんなぁ…」
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