第5話「狐火 其の一」
あの出来事があってから、天邪鬼は昇龍に懐き毎日遊ぶ仲となった。天邪鬼は住んでいるところも無く山の中を彷徨っているようだった。流石に妖怪を毛嫌いしている神社に匿う訳には行かないので、昔から昇龍が秘密基地にしていた山奥の小屋に天邪鬼を住まわせた。街全体を見渡せ、海も綺麗に見える絶景スポットだ。天邪鬼もこの場所を気に入ってくれた。
「陰陽師のお兄さん!おはようございます!」
「おはよぉ天邪鬼くん!今日は久々に退治依頼が来てたよ。」
「どんな依頼ですか?」
「えぇっとね…」
『上雷山を歩いていると必ず道に迷います。歩いていると炎が現れ、歩く方向を惑わせてくるのです。妖怪の仕業だと睨んでおり、大変迷惑しています。お早く退治願います。』
「…だってさ。たかが道に迷うだけなのにどうして退治を要求するかねぇ…惑わされた方が悪いのに…もっと人間は妖怪の尊さを知るべきだよ。」
「お兄さん、本当に不思議な人ですね。妖怪が好きな人間は初めて見ましたよ。」
「でしょうでしょう」
天邪鬼は何千年も生きる。その何千年の中でも妖怪が好きな人間…いや、陰陽師には一度も会った事がない。あまり人間に関わらないようにしていた事もあるだろうが、それでもこの陰陽師は優しすぎる。
「あの、ぼくも依頼手伝います!この前助けてくれた恩もありますし…何かの形でお礼をしたいんです!」
「うぇっ?!いいの?!じゃあ、お願いしちゃおうかな!!」
依頼の手伝いを申し出た天邪鬼に、若干山が苦手で一人で行くのは怖いと思っていた昇龍は感謝した。昇龍は実を言うと蜘蛛が苦手なのだ。無数の足に無数の目、何を考えているかわからない顔で見つめられると、昇龍は確実に気絶する。
「…ところで天邪鬼くん。蜘蛛っていける?」
「蜘蛛ですか?平気ですよ!」
「ならよかった!その時はよろしく頼むね!」
「???」
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薄暗い山の中、二人の地を踏む音だけが響く。辺りは木ばかりで、フクロウの声が段々と不気味に聞こえてくる。
「陰陽師のお兄さん。依頼の妖怪は何だと思いますか?」
「うーむ…。そうだね、内容を見るかぎり…狐火かな。人を惑わせる炎で登山者を遭難させるんだ。」
「何でそんな事するんでしょうか?」
「遊びかなぁ。ほんと、酷いよね。遊んでいるだけで退治依頼出されるなんて…人間の子だって遊ぶくせにさ。」
「陰陽師のお兄さんは、子供の頃どんな遊びをしていたんですか?」
「…友達いなかったから…手遊びとか…」
照れながら言うと天邪鬼はハッとして自分が聞いた事に後悔し、気まずそうに、悲しそうに昇龍の顔を見た。
「…ごめんなさい…これからは、ぼくと遊びましょうね…!」
「その目やめてよぉ!!!」
ボッ
その時、目の前に赫く揺れる炎が現れた。
「あ、出てきた!狐火さぁん!出ておいでー!!」
昇龍が炎にそう呼びかけると、何処からか少し低い声がした。
「あらまぁ…僕のこと知ってるんやね。」
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