第3話「天邪鬼 其の三」

「形見…?」


「はい。あの家の人間に…母の形見を盗まれたのです。あの形見はやっと見つけ出した物で…母が着けていたイヤリングの片方です。もう一つは見つかりませんでしたが、一つだけでもあれば十分なんです!ですが…唯一の形見を盗まれてしまい…どうにか取り返せないかと毎晩交渉をしに行っているのです…」


「あの家って…やっぱ依頼者の家か…」


「え、?」


「あぁ、ごめんね!こっちの話だよ。で、交渉はどうなったの?」


昇龍がそう聞くと、天邪鬼の少年は今にも泣きそうな顔をして言った。


「盗まれた方が悪いと言って、返してもらえませんでした…引く訳にも行けないので毎晩交渉をしに…」


遂にボロボロと泣き出してしまった天邪鬼を優しく刺激しないように撫でると、昇龍は最後の質問をした。


「ところでさ…その家から食べ物って…盗んだ?」


「食べ…物…?盗んでいませんよ…?ぼくはただ交渉を行なっているだけです…」


それを聞いた昇龍は腹の底から這い上がる怒りをしずめ、天邪鬼に笑いかけるように言った。


「ありがとう。イヤリングを取り返してくるからさ、此処でちょっと待っててくれない?すぐ戻ってくると思うから!」


「えっ…?!…わかりました。お願いします、人間さん!」


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「あの…どうして私も…?というか…退治出来たんですか?」


あの後昇龍は女の元へ戻り、着いてくるように言った。女はそんなに早く帰ってくるとは思わなかったのか、戻ってきた途端びっくりしていたが退治したというわけでも無く何故帰ってきたのか分からなかった。しかも挙げ句の果て着いて来いというのだ、女は不満を募らせていた。


「退治してないですよ。ただ貴女にもう一度お話をしたくて。」


「はっ…話?それならもうしたじゃないですか。私は見ての通り貧乏で食べるものにも困っているのに、あの忌々しい天邪鬼が食べ物を盗んでいると…」


自分に疑問を持ち始めたと気づいた女は焦りを見せながらも、先刻と同じようなことを早口で言った。昇龍はチラリと女を見ると、片耳に紫色に輝いた美しいイヤリングがついていた。あれはきっと…


そして昇龍は確信した。…この女は嘘をついている…


「ところで依頼者さん。」


「依頼者…私の名は優子です。せめて優子と…」


「優子さん。貴女は天邪鬼とはどういう妖怪か知っていますか?」


「天邪鬼?…わかりません。でも食べ物を盗んでいるから物を盗む妖怪じゃないんですか?あとはなんか…悪さをするとか…」


「……。」


急に黙りこくった昇龍に訳がわからないと言ったように女は眉を顰めた。暫く歩くと、前に子供の姿が見えた。


「!!!」


忘れることはない。毎晩毎晩私の家を訪ね、イヤリングを返してと懇願してくるあの鬱陶しい天邪鬼のガキだ。この陰陽師に依頼すればすぐ退治をして居なくなってくれると思っていたのに…この男は何をしているのだ。


「あの子供です、陰陽師さん!毎晩食べ物を盗んでいく天邪鬼です!早くどうにかして下さい!私の命がかかっているんですよ!」


優子は叫ぶようにそう言うと、昇龍はにこりと笑った。


「天邪鬼はどっちだこのクソ女」

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