第11話 誰かが一緒にいてくれたら
「じゃあまたね、諏訪ちゃん!」
「はい、また」
諏訪ちゃんと別れた後、すぐにLimeを確認する。
『香澄、久しぶり。最近どう?』
『よかったら、今度会えない? やっぱり、もう一度ちゃんと香澄と話したくなってさ』
『他に彼氏がいるとか、会いたくないとかなら、もうブロックしてくれてもいいから』
『俺は今、付き合ってる人はいないよ。香澄のことが忘れられなくて、あの後全然上手くいかなくて』
文章が簡単に元カレの……
別れたのは4年前、私が24歳の時だ。付き合い始めたのは23歳の時で、友達の紹介で知り合った人。
「……どうしよう、これ」
別れた原因は、私のオタ活だ。当時アイドルオタクだった私は、休日のほとんどをライブに費やし、給料のほとんどを推しに使っていた。
そのことで何度か光輝と揉め、揉めた末に別れたのだ。
今振り返ってみれば、当時の私が悪かったと思う。
光輝はオタク趣味を否定したわけでも、私の推しを悪く言っていたわけでもない。ただ、『過度なオタ活』を諫めただけだ。
まあそうだよね。
いくら推しのためだからって、あの時の私は、光輝のことをないがしろにし過ぎた。
それに社会人になったばかりの私は、仕事とプライベート、そしてオタ活の時間を上手く調整できなかったんだと思う。
「別に、会ってもいいけど……」
付き合っている人はいないし、いい感じの人だっていない。
未練があるわけじゃないけど、いい人だったとは思う。少なくとも、マッチングアプリで出会った誰よりも、きっとまともな人だ。
それに今の私は、あの頃ほどプライベートを忘れてオタク趣味にのめり込んではいない。
光輝とだって、上手くやっていけるかもしれない。
「うーん……」
婚活や恋愛から離れて、最近は諏訪ちゃんと楽しく過ごしていた。そんな今、光輝から連絡がくるなんて。
あとちょっと早くきてたら、飛び跳ねて会いに行ったかもしれないのに。
悩んだ挙句、とりあえず返信を送った。
『連絡ありがとう。いろいろ確認してまた返事するね』
ただの逃げだ。答えを先延ばしにしただけ。分かっている。分かってはいるのだけど……。
「今、そんな気分じゃなかったんだよね」
◆
「……だめだ。ぜんっぜん、寝れない……!」
ゆっくりお風呂につかって、お風呂上がりにお酒まで飲んだ。
それなのに、全く眠れない。目が冴えて……というか、いろんなことを考えてしまって。
光輝と付き合っていた時のこと。周りが結婚して焦ってしまった時のこと。
婚活が嫌になった時のこと。諏訪ちゃんと出会って、久しぶりに楽しい気持ちになれた時のこと。
そして、これからのこと。
光輝と会わなかったら、後悔するかな。だって私、28だし。まだ若いけど、子供のこととかを考えたら、のんびりしていられるほどの年齢でもない。
子どもがほしいわけじゃない。だけど、いらないと思っているわけでもない。
「……ずっと独身だったら、寂しいのかな」
頭の中がぐちゃぐちゃで、あーっ! と思わず叫び声をあげてしまう。
こんな時、誰かが一緒にいてくれたら、むしゃくしゃした気持ちだって共有できるのだろうか。
悩んでいる時も、喜んでいる時も、悲しんでいる時も。
隣に誰かがいてくれたらきっと、私は嬉しい。
一瞬だけ目を閉じる。瞼の裏に見えたのは、諏訪ちゃんの顔だった。
スマホに手を伸ばし、諏訪ちゃんに電話をかけてみる。現在の時刻は午前2時。諏訪ちゃんはとっくに眠っているかもしれない。
2コールだけ待とう。もし出なかったら、おとなしく目を閉じて朝がくるのを待つ。
プルル、と鳴ったのは1回だけだった。
『……持田さん? こんな時間にどうかしました?』
「……起きてたの?」
『あ、はい。深夜アニメ、リアタイしてたので』
電話越しに聞く諏訪ちゃんの声は、ちょっとだけいつもと違う。だけど眠そうな声を聞いたら安心した。
「ちょっと眠れなくて。その……話、聞いてくれないかなって。あ、全然その、眠かったら断ってくれていいんだけど!」
『持田さん。断ってくれていい、なんて思ってる人は、こんな時間にいきなり電話してこないんじゃないですか?』
「うっ……」
痛いところを突かれた。
というか普通、思ってもそんなことは口にしないんじゃないの?
本当諏訪ちゃんって、こういうとこあるよね。
『絶対聞いてほしいなら、そう言ってください。その方が分かりやすいです』
「……絶対聞いてほしいんだけど。いい?」
『いいですよ。あっ、一回トイレ行くんで、ちょっとだけ待っててください』
スマホをおいてトイレに行ったのか、しばらくの間無言になる。
そして少しして、諏訪ちゃんが戻ってきた。
『どうぞ。飲み物も用意してきました』
「……ありがと、諏訪ちゃん」
なんだか、全身から力が抜けた気がする。今なら眠れそうだ。さすがに、この状況で寝落ちなんてしないけど。
「あのね、諏訪ちゃん……」
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