第8話 大事件です!

「ショート動画って、結構難しいね……」


 普通の写真を撮り終え、ティックパックの撮影を開始してから、約2時間。

 簡単な振りなら撮影も楽に終わると思っていたのに、そうじゃなかった。


 ダンスの振り付けだけじゃなくて、表情も意識しないといけないし、これってかなり大変なんだ……!


「そうなんですよね。普段はバズってる上手な人のばっかり見てる分、自分でやってみるとなんか違う……ってなりがちですし」

「分かる! やっぱり、バズるものには理由があるんだなぁ」


 疲れた、と私が地面に倒れ込むと、諏訪ちゃんがパソコンを持ってきて画像の編集を始めた。

 SNSにアップロードする前に、全てちゃんと加工をするのだという。


「持田さん、先お風呂入っていいですよ。私、画像加工しちゃいたいので」

「ありがと。お風呂借りるね」


 今日は金曜の夜だし、諏訪ちゃんの家に泊まらせてもらうことになっている。

 正直、すごくありがたい。まだ終電はあるけど、私の元気は残ってないから。


 立ち上がって浴室へ向かう。リビングを出る直前に諏訪ちゃんを見ると、真剣な顔つきで画像の編集をしていた。


 諏訪ちゃん、本当にコスプレが好きなんだ。





 結局諏訪ちゃんの画像編集が終わったのは、深夜3時過ぎだった。先に寝てもいいとは言われたけれど、さすがにそんなわけにはいかない。


 諏訪ちゃん、ツーショットだけじゃなくて、私のソロショットも加工してくれてるわけだし。


「じゃあ、ネットにアップするやつ選びましょうか」

「全部はあげないの?」

「さすがに多すぎますから。まあ、思いの外反応がよかったら、あとから追加でアップしたりはしますけど」

「なるほどね」


 諏訪ちゃんのパソコンで、編集済みの画像を確認していく。

 無加工の状態とは比べ物にならないクオリティーだ。


 輪郭もしゅっとしてるし、顔だけじゃなくて指とかもちゃんと細くなってる。

 すごいなぁ、諏訪ちゃんは。


 私だって写真を加工することはあるけれど、ここまでしっかりとした加工をしたことはない。ほとんどの場合、カメラアプリのフィルターを使うだけだ。


「あっ、これよくないですか?」


 諏訪ちゃんが選んだのは、エドワード王子がリリアを壁ドンしている写真。

 横顔が綺麗に撮影されているし、雰囲気もいい。


「……これ、私がめちゃくちゃ膝曲げて撮ったやつだよね?」

「はい。そして、私が踏み台使って撮ったやつです」


 顔を見合わせ、撮影時のことを思い出して同時に噴き出す。

 身長差を演出するために、かなり無茶をして撮った写真なのだ。


 エドワード王子とリリアの身長差は33センチ。諏訪ちゃんは私より背が高いとはいえ、その差は7センチ。

 普通に撮っただけじゃ、キャラクターの身長差を再現できない。


 だから写真に入らない部分でなんとか調整したのだ。いい写真が撮れるまで膝を曲げ続けたせいで、結構足が疲れている。


「この持田さんもいいですよ」

「わっ、本当だ……! これ、物干しハンガーで造花つるしたやつだよね!?」

「そうです、そうです」


 頭上にある花を見上げて微笑んだ、可愛くてちょっと幻想的な写真。

 しかし現実は、物干しハンガーに造花をはさみ、上からつるして撮影したものだ。


 私が今まで何気なく見てたコスプレ写真の裏側も、きっとこんな感じだったんだろうな。


「ちなみにこれ、ハンガーが入り込んじゃったバージョンの写真です」

「なんか、ちょっと滑稽っていうか……」

「ですよね、本当」


 写真を見て、諏訪ちゃんがくすくすと笑う。本当に楽しそうで、なんだか私まで嬉しくなった。


 諏訪ちゃんは今までずっと、これを一人でやってきたんだもんなぁ。


 一人でだってもちろん、趣味は楽しめる。むしろ、一人の方が楽しいことだってたくさんある。

 だけどこうやって、共有したいことだってあるよね。


「諏訪ちゃんはこの写真絶対載せるべき。一番格好いいから」


 盛れている写真を指差すと、確かに……と諏訪ちゃんが真剣な顔で頷いた。


 それから一時間ほどかけて写真の厳選を行い、SNSの投稿を予約しておく。

 深夜に投稿するより、人がいる時間に投稿する方が見てもらいやすいそうだ。


 予約時間は、朝の10時過ぎ。土曜日なら、比較的多くの人の目につく時間だろう。


 たぶんこのまま寝たら、私たちが起きるのは昼過ぎだろうし、投稿の予約をしておくのが安全だ。


「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

「うん!」


 諏訪ちゃんが用意してくれた布団に寝転ぶ。疲れていたからか、すぐに眠ってしまった。





「持田さん、起きてください、これ、大事件です!」

「ん……諏訪ちゃん、なに……?」


 身体を揺さぶられ、眠い目をこすりながらなんとか起き上がる。すると、目の前にスマホを突きつけられた。


「見てください。持田さんのアカウント、ちょっとバズってます!」

「えっ!?」


 画面に表示されていたのは、何枚かコスプレ写真をのせた私の投稿だ。


「いいね数、1221……!?」

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