第7話 初めての宅コス!
「まずはベースメイクして、その後テーピングしましょう。持田さんは女性キャラのコスプレですし、そこまできつくやらなくてもいいと思いますけど」
テーピングというのは、顔にテープを貼って、フェイスラインを整えることだ。
二次元キャラの輪郭はかなりシュッとしているから、少しでも寄せるためには欠かせないことらしい。
今回私が挑戦するキャラは『魔法少女・プリンセスメイカー!』のヒロイン、リリア=ロベルル、というキャラクター。
平民だが才能を認められて魔法学校への入学が決まった少女だ。
リリア、可愛いし努力家だし、好きなんだよね。
それにリリアなら、エドワード王子と合わせるのにぴったりだし!
諏訪ちゃんは私がやりたいキャラに合わせてくれると言っていたけれど、私としては、どうしても諏訪ちゃんのエドワード王子と合わせたかったのだ。
リリアは銀髪に薄紫色の瞳の美少女。トレードマークは、大きなリボンのついた魔女帽子だ。
「これ、使ってください。コスプレ用のコスメです。宅コスですし普通のでもいいんですけど、落ちにくかったり、発色がよかったりするので」
大きなコスメボックスを持ってきて、諏訪ちゃんが広げてくれた。中には、見たことがないメーカーのコスメがたっぷりと入っている。
コスプレメイクはいつも使わない色を使うことも多いから、普通のコスメとは違うものを使ったりするんだよね。
「ありがとう、諏訪ちゃん」
「ベースメイク終わったら教えてください。テーピングは慣れないと難しいと思うので、手伝いますね」
「ありがとう!」
私の横で、諏訪ちゃんもメイクを始める。慣れているのか、かなり素早い動きだ。
諏訪ちゃんが、どんどんエドワード王子になっていく。どっちの姿も知っているけど、こうやって変わっていくところを見るのは新鮮だ。
「持田さん。見過ぎです」
「あっ、ごめんつい……」
「別にいいですけど」
最近は友達の家に泊まることもないから、こうして誰かと一緒にメイクをするのも久しぶりだ。
ちょっと前まで当たり前だったことが、今はすごく新鮮に感じられる。
◆
「持田さん、めちゃくちゃいいです。初めてとは思えないクオリティーですよ!」
「……そう?」
「はい。リリアコスって何回か見たことあるんですけど、加工なしでこのクオリティーはやばいです!」
こんなに早口で大声な諏訪ちゃん、会社では見たことない。
それにやっぱり、褒められると嬉しいものだ。
「ありがとう。諏訪ちゃんもやっぱり、エドワード王子似合ってるね」
「ありがとうございます。好きなキャラで、気に入ってるんですよね」
諏訪ちゃんが照明をつけ、立派なカメラを持ってくる。リモコンと連動していて、ボタンを押せば写真が撮れるようになっているらしい。
この部屋、本当にコスプレ最優先って感じ……!
「とりあえず、写真撮りましょうか。その後ちょっと動画も撮りません?」
「動画?」
「はい。ティックパックの。簡単なダンス動画とかならすぐ覚えられますし」
ティックパックは、最近流行っているショート動画のアプリだ。
私もたまに見るけれど、投稿したことはない。
「せっかくですし、アカウント作りましょうよ」
「アカウントか……」
SNSのアカウントは、それなりに持っている。リアルの知人用のアカウントも、オタク用のアカウントも。
でも、基本的にどれも鍵垢だ。
「もしかして抵抗あります?」
「……まあ、ちょっとは? でもコスプレするなら、投稿するアカウントがないとだよね」
コスプレしているとはいえ、自分の顔が映った写真を公開アカウントに投稿するのはちょっと緊張する。
知り合いに見つかる可能性だってあるし、叩かれる可能性だってある。
一度インターネットに出した写真は、もう取り消すことができない。
「嫌なら、無理にはすすめません」
諏訪ちゃんはそう言うけれど、せっかくの合わせなのに、私の写真を投稿できないのも困るだろう。
「……いや、いいよ」
「いいんですか?」
「うん。せっかくやるなら、ちゃんと楽しみたいし」
もしかしたら、後悔するかもしれない。
いい年して……という気持ちだって、ないわけじゃない。
でも、やってみたい。その気持ちに、今はただ従いたい。
「アカウント作るから、諏訪ちゃんのコス用アカウント教えて! あ、ついでに普段のやつも」
「了解です。……あと、普段のやつはないです」
「そうなの?」
「はい」
そういうの、ちょっと憧れちゃうな。
無理に周りに合わせたり、流されちゃう……みたいなことが、諏訪ちゃんにはなさそうだから。
私は……と暗くなりかけた思考を振り払うように頭を振る。
落ち込んでも時間がもったいないだけだ。
自分の嫌なところは、これからちょっとずつでも改善していけばいいんだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます