第5話「陰毛占い」
毛を毎朝一本抜いてその日の運勢を占うような女に何故自分が惚れたのか、俺には分からない。毛とは、言うまでもなく陰毛である。
「だってもう七年も続けてて外れたことないんだもん!」
元気はつらつといった自信に満ちた声で言う女を、どうも俺は心の底から好いているらしい。
ちなみにこの寝起きの陰毛占い以外は極々普通の女だ。見た目は割と可愛い方だし、気遣いもできる。それだけに陰毛占いとのギャップが脱力ものだ。
「今日は夜雨が降るよ。折りたたみ傘、持って行ってね」
「天気予報ではそんなこと言ってないぞ」
「私の占いでは言ってる」
恐ろしいのは、気象庁よりもこの女の陰毛の方が正しいことが多いということだ。俺は素直に黒い折りたたみ式の傘を持って家を出る。
勤めを終えて夕方になると、曇り程度と言っていた空が段々曇天になっていった。マジかよ。
職場からメトロの駅まではそれなりに歩く。
傘持ってねえよー、と嘆く連中を尻目に、俺は鮮やかに折りたたみ傘を取り出して職場を後にし、霧雨の中歩き出す。
明日はどんなことを占ってくれるのか、少々楽しみにしている自分に気づく。まあいい。あの女が陰毛一本を犠牲にしてくれたおかげで、俺はこうして濡れずに帰れるのだから。
(了)
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