第4話「普通という主観」
形而上学には詳しくないけど、存在がどうとか実存がどうとか言うなら、本来俺は存在すべきではなかった。今もないだろう。
別に不幸自慢をしたり自分を罪深い存在だと主張するつもりはないけど、だって、ないんだ。存在価値も、生命の赦しも。
大罪を働いたか? さほどでもない。俺の主観では。
問題はその主観。
俺のしたことは、世間一般の倫理観に照らし合わせると非常によろしくないこと。らしい。だが当の俺にはその罪の意識も何もない。具体的に何をしたかなんていっそどうでもいい。俺は自分がただやってみたくて、純粋にやりたくてやったことが世界中から強烈に非難されこんな所に隔離されるような状況にまで陥ったことが単純に驚きで、ショックだった。知らなかった。自分の価値観が、そこまで歪みきっていることが。
二十四時間三百六十五日監視カメラに見つめられ、ほとんど何をすることも許されない環境下で、初めて俺は学んでみようという気になった。「普通」という概念について。
本を読むことは可能なので、今、俺は勉強中だ。
「普通」って、こんなに難しいことなんだな、という発見の連続で、おそらく俺が「普通」を会得し終えても、刑期はまだ残っているはずだ。
「普通の人間」としてもしもまた外に出ることができたら、そうだな、まずは朝起きて、暖かいコーヒーを飲むってやつから一日を始めてみたい。
(了)
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