第2話「警告」

 警告を受けた。

 それは他者の命の扱い方であり、同時に私自身の命の扱い方であった。

 別に『命を大切に』だとか『自殺は良くない』などといった表面的で世間一般に跋扈する倫理観、小学校の道徳の教科書に載っていそうなものではなく、もっとシンプルで理解しやすく、別の言い方をするならば単なる事実でもあった。


——本来、生命は美しいものだから、汚さないようにしなさい。


 こうして文面に起こしてみると、あたかも親切に、或いは神が弟子たちに教えを施すように貴方の目には映るかもしれないが、あれは間違いなく私に対する『警告』であり、『最後通達』でもあったのだ。

 激痛に顔を歪めながら、薄い唇からは血液とちょっとした内臓物を垂らし、その人物は私が鮮やかに刺し捻りきったナイフ、それを握る手を冷えた手を血みどろになりながら両手で握りしめ、絶命の寸前、そう言った。立場で言えば私の方が明らかに優位であり、私の気ひとつでもう一本のナイフを頸動脈に滑らせればなにも、なにひとつなかったことにできる状況下で、しかしその人物は私よりも遙かに上に、それこそ生命の階層の上に居たのだ。



 以来、私は人を殺めることをやめた。

 しかし、だからといって罪の意識から自ら命を絶つこともしなかった。

 何しろ命は美しいもので、その当時の私の生命は汚れきっていたから、私は汚れを取り除き、彼のように、より高い階層に、生命体としてより高い領域に行って、この命を美しく清め、そこからはこの腐りきった世界がどのように見えるのか知るために精進している。

 そこからの景色を見ることを私は希求しているが、仮にそれが私を落胆させるものであっても、私は命を磨き続けるだろう。

 何故なら、それはおそらく位置や世界の問題ではなく、私の命の美しさがまだ足りていない、ただそれだけの問題だろうと、今なら思えるからだ。


                          (了)

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