「け」から始まる掌篇小説集
灰崎凛音
第1話「相棒」
「警察沙汰だけは御免だ」
金色のボタンが輝く学ランを纏った少年は、隣を走る銀髪パーマの長身に小声で放った。
「馬鹿野郎、俺がおまえをそんな目に遭わせると思うか?」
成人にも見える銀色の髪の男は、学生と同じ十五歳である。身長は180を優に超え、ピアスやタトゥーが目立つ容姿は、黒髪でフレームレスの眼鏡をした男子学生——高校一年生の少年とは、住む世界が違うかのようにも思われた。
「思うから言ってる」
「じゃあ思うな」
言いながら銀髪パーマは小柄な黒髪学ランの腕を軽く持ち上げて路地裏の障害物から避けてやる。
「信じろよ、俺らバディだろ?」
すっかり走り疲れた学生は、それでも二度だけ頭を縦に振り、呼吸を荒くしていた。
二人の十五歳を後ろから追うのは安っぽい柄シャツを着たチンピラ三人で、金を返せだのブツはどこだだのといった主旨を下品で教養のない言葉、それを怒号に載せて発していた。
「嘘だろ、行き止まり⁈」
もはや膝が笑っている学生の手を引いていた長身が、目線の先を見て叫んだ。
「いや、T字路だ。右か、左か?」
「居たぞ! 囲め!」
チンピラ達が距離を縮めてくる中、二人の十五歳はほんの一瞬瞳だけで意思疎通を図り、次の瞬間、学生が持っていた鞄から旧一万円札の束を取り出して宙にばら撒いた。
絶句して足を止めるチンピラ三匹は、もはや黒髪と銀髪の視界にはない。
「じゃあ、おまえは遅刻すんなよ!」
「おまえこそ生きてアジトに戻れよ!」
黒髪の小柄な学ラン姿は駅に近い左に進み、銀髪パーマはサングラスを着用して右に走り込んでいた。
T字路の中央、左右の分岐点に、埃にまみれた陽光が優しく降り注ぐ。
(了)
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