迷花 2

 私はバイトをする暇があったらその時間も絵を描いていたいので、有料で依頼を受けている。主に、Vtuberさんや歌い手のサムネなどの依頼が来る。今まで受けた最も大きな仕事はとあるVtuberさんのlive2Dのキャラデザで、これは立体として完全に整合の取れた三面図が必要なので、AIには難しいらしい。三面図を作るAIもあるけれど、AIは二次元世界しか知らず立体を理解しているわけではないから。

 いつもそうした仕事が来るわけではないので、依頼が無い間は、単にSNSで評価を伸ばすための絵を自主的に描く。これは無報酬だけど、練習も兼ねているしフォロワーを増やすことは重要だ。


 また、skebなどのコミッションサイトで、リクエストという名の個人依頼を受けている。円安だからと、海外のコミッションサイトに登録したこともある。なぜか私の絵は海外受けして、SNSのフォロワーも半数以上が海外勢のようだ。

 コミッションサイトの中には依頼者と絵描き間のやり取りの往復を禁じたものもあり、依頼者のリクエストに対して絵描きが描くというシンプルなものとなっている。打ち合わせやリテイクなどは無い。クライアント側から見るならば、言葉で依頼すると、一ヶ月以内に絵が出力されるブラックボックスのようなものだ。

 これは傍から見ると、ほとんど画像生成AIのようなものではないか。AIが登場してから、自虐的にそう考えることが何度かあった。しかも、数万円が相場の。体調が悪くて納品が遅れて、しかも満足いく出来ではなかったとき、クライアントが〝人間ではなくAIにすれば良かった〟と思うのではないか、と心配になったことがある。ニュースのアナウンサーが噛んでしまったとき、彼らも同じ不安に襲われるのではないかと想像することもある。


 でも、AIよりも私に依頼すべき理由はいくつかある。ブラックボックスの内部から見ると。

 AIは外界を理解していない。私は依頼文の意味だけではなく文脈を理解できるし、クライアントの望みも想像できる。海外からの依頼だと自動翻訳の誤訳かな?と思うリクエストもあるから、原文も読む。その人がクラウドにあげてきた資料だけじゃなく、他のファイルも見て、その人を理解する。その人の他のリクエストと被らないようにする。気に入ってくれたら、チップのようなボーナスがもらえる。

 あと、フォロワー七万人のSNSでその絵を紹介することもできる。そうでなければ、自分のアカウントで宣伝しなければならないだろう。

 きっとAIの人たちは、全てはマルチモーダル化か何かで解決すると言うけれど、プレイヤーが排除されたゲームのことは、ただ無意味にしか思えない。


 イラストの依頼と制作が人間の行うコミュニケーションであることを大事にしてくれるのは、やはりVtuberさんたちなのだった。大手事務所はAI利用をしないし、SNSに投稿されるファンアートでも住み分けを呼びかけている。最新技術によって成り立つこの配信ジャンルは、それでも手描き絵師たちを、産みの親であることから〝ママ〟と呼んで、良好な関係を維持している。この配信者たちは結局のところ〝ガワ〟ではなく〝中の人〟の人格を人々が求めている、ということが証明されたジャンルの内部で生きてきたからだ。その欲求を体感しながら。

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